一般書籍

2023年12月に読んだ本

地球にちりばめられて地球にちりばめられて (講談社文庫)作者:多和田葉子講談社Amazon国境という区切りに沿う形で規定される言語とは何なのかというのは作者のメインテーマであるわけだが、その集大成的な雰囲気を感じるシリーズ第一作。日本という国が消滅…

2023年10月に読んだ本

最後の三角形 最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選 (海外文学セレクション) 作者:ジェフリー・フォード 東京創元社 Amazon 「タイムマニア」は片田舎で幽霊に導かれた少年が町の住民が複雑に絡む犯罪の謎解きをする。その過程でインフェルノを垣間見…

2023年8月に読んだ本

オレンジ色の世界 オレンジ色の世界作者:カレン・ラッセル河出書房新社Amazon吹雪の山頂で開かれているパーティーでタダ飯を食うために凍えながらリフトで運ばれる親友同士の少女たち(パーティー客たちは「シャイニング」のホテルの人々のような存在感)、…

2024年1月に読んだ本

新自由主義の廃墟で 新自由主義の廃墟で: 真実の終わりと民主主義の未来 作者:ウェンディ・ブラウン 人文書院 Amazon ザッと読み通した。ポスト・トランプ時代を分析する筆者の論調は左翼の巻き返しにかなり悲観的。が、それは現状を冷静にみつめる真摯さの…

2023年6月に読んだ本

マナートの娘たち マナートの娘たち (海外文学セレクション)作者:ディーマ・アルザヤット東京創元社Amazonアメリカ人として生まれ育ったアラブ系二世の眼から見た日常の姿を活写する鮮烈な短編集。映画産業のインターンとして夢と希望を持った女性が現実を徐…

2023年4月に読んだ本

不死鳥と鏡 不死鳥と鏡 (論創海外ミステリ 288)作者:アヴラム・デイヴィッドスン論創社Amazon色仕掛けにはまって、探偵の役回りを押し付けられる凄腕魔術師という発想がまず天才。ハイファンタジーとミステリーの両方が楽しめる。推理パートのバディ役がまた…

2023年3月に読んだ本

フィールダー フィールダー (集英社文芸単行本)作者:古谷田奈月集英社Amazon書題は社会問題の当事者を指している。主人公がゲームフリークという設定から、実際にバトルフィールドで応戦するプレイヤーというイメージから採られている。序盤は出版社に勤める…

2023年2月に読んだ本

ジャクソンひとり ジャクソンひとり作者:安堂ホセ河出書房新社Amazonステレオタイプと差別との合わせ技によって、そもそも個性すらはじめから奪われている黒人ミックスルーツの若いゲイ4人が、ポルノ動画配信の謎をめぐって一つの冒険に出る。ファッションブ…

2023年1月に読んだ本

夜毎に石の橋の下で 夜毎に石の橋の下で作者:レオ・ペルッツ国書刊行会Amazon16世紀のプラハを舞台に夢幻的な繋がりで運命が結ばれた人々の姿を連作方式で描く。人生のままならなさに対して真摯であるゆえに、こともなげに軽快な文体で綴られるというペルッ…

2022年12月に読んだ本

アホウドリの迷信 アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクションスイッチパブリッシングAmazon二人の翻訳者が、近年の英語圏短編小説から気になる作品を持ち寄る形式のアンソロジー。意図せざる結果と思うが、男女比率は1:7で女性作家が多い。主観と…

2022年9月に読んだ本

愚か者同盟 愚か者同盟作者:ジョン・ケネディ・トゥール国書刊行会Amazon60年代のニューオーリンズ。初老の母と二人暮らしの自称哲学者イグネイシャスは、無職の身から脱せねばならなくなり、傾きかけた縫製工場の事務員や路上ホットドッグ売りを経験する。…

2022年10月に読んだ本

骨は知っている 骨は知っている――声なき死者の物語作者:スー・ブラック亜紀書房Amazon法医解剖学者が実際の犯罪解明のための職務に際して感じたことなどを織り交ぜながら、様々なケースを追う。殺人事件としてはすっきりと解決しないながらも、被害者が受け…

2022年11月に読んだ本

大正女官、宮中語り 大正女官、宮中語り作者:山口幸洋創元社Amazon大正天皇時代に女官として仕えた(当時、側室制度は廃れていた模様)女性の老境に聞き取りを行ったその記録。読んでいる内にこそばゆく感じてくる宮中ことばがなんとも印象深い。皆で百貨店に…

2022年8月に読んだ本

エドワード・ホッパー作品集 エドワード・ホッパー作品集作者:江崎聡子東京美術Amazonホッパーの画家としての出発点は、フランス絵画をはじめとして伝統を長く保ってきたヨーロッパへの憧れがにじみ出る印象派の影響の強い作風からだった。しかし(建国から浅…

2022年7月に読んだ本

テュルリュパン テュルリュパン ――ある運命の話 (ちくま文庫) 作者:レオ・ペルッツ 筑摩書房 Amazon 発達障害という症例概念が発見されていなかった近世のフランス。市民革命より100年も前に、実は王権転覆の気運は高まっていた。ではなぜそれが頓挫したか… …

2022年6月に読んだ本

パチンコ (上・下) パチンコ 上 (文春e-book) 作者:ミン・ジン・リー 文藝春秋 Amazon 百年四世代にわたるとある朝鮮人一族の歴史。戦争と経済とを縦軸に、苦悩と後悔と愛情と歓喜とを横軸に用いた物語になっており、ここまで堂々たる大河小説はひさしぶりに…

2022年5月に読んだ本

東京ゴースト・シティ 東京ゴースト・シティ 作者:バリー・ユアグロー 新潮社 Amazon 人気のある都市というのは、大概が過去に生きた人々の痕跡がじんわりと肌で感じられる。知日家でもあるナンセンス小説の名手ユアグローが、出版社の招へいに応じて短期逗…

2022年4月に読んだ本

フロイト、夢について語る フロイト、夢について語る (光文社古典新訳文庫 Bフ 1-5) 作者:フロイト 光文社 Amazon フロイトは名著『夢判断』のあとにもちょこちょこと夢と無意識とにまつわる論文を書いていたそうで、それらを集めた内容だけに(ん、先生その…

2022年3月に読んだ本

ゴーイング・ダーク ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ 作者:ユリア・エブナー 左右社 Amazon 巧妙化が進むインターネット上の極右の動きに対抗するために、国家とも繋がりの深いシンクタンクに所属する若き女性である著者が時には自ら対象団体に…

2022年2月に読んだ本

掠れうる星たちの実験 掠れうる星たちの実験 作者:乗代雄介 国書刊行会 Amazon サリンジャーへの作家論である表題作を中心に新刊レビューと未発表作を交えた短編小説とで構成された割と変則的な一冊。この人の書評、わたしよく分かんねえな。でも文章の表面…

2022年1月に読んだ本

平家物語 平家物語 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 河出書房新社 Amazon 小説家の古川日出男による現代訳。自分は馬がかわいそうでつらいので騎上戦よりも舳先が細い船をかち合わせる海上戦の方を重点的に読んだ。しかしなかなかどうして、痛そうというか残…

2021年12月に読んだ本まとめ

ギケイキ(Ⅰ,Ⅱ) ギケイキ2: 奈落への飛翔 作者:町田康 河出書房新社 Amazon 一冊目は頼朝とともに平家打倒、源氏復興に立つまで、二冊目は兄の頼朝に政敵とされて都落ちする中で愛妾の静と別れるまで。現代日本に意識を置いたままらしき九郎判官義経が、く…

2021年11月に読んだ本まとめ

TOKYO REDUX 下山迷宮 TOKYO REDUX 下山迷宮 (文春e-book) 作者:デイヴィッド・ピース 文藝春秋 Amazon 日本の戦後を象徴する事件を題材にした三部作の最終巻。本書第一章は事件の捜査に直接係わったCID所属アメリカ人の高熱に浮かされるような視点、第二章…

2021年10月に読んだ本まとめ

文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室 文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室 作者:アーシュラ・K・ル=グウィン フィルムアート社 Amazon ル=グウィンの果敢で明晰な口調で実践的に文章を綴るための例題が繰り出されるので(テーマと仮説するための内容の…

2021年9月に読んだ本まとめ

海の鎖 海の鎖 (未来の文学) 作者:ガードナー・R・ドゾワ 国書刊行会 Amazon 編者が長い翻訳生活の中で選り抜いた、偏愛SFアンソロジーというコンセプトということもあり読んでみてすぐの印象はそれぞれ地味なのだが、構成やレトリックの巧みさ、テーマ性の…

2021年8月に読んだ本まとめ

植物忌 植物忌 作者:星野 智幸 朝日新聞出版 Amazon 植物が人体と融合する近未来の日本を舞台に、異なるシチュエーションの短編によるオムニバス小説。ジェンダーの可視化がサブテーマとなっていることでよりアクチュアリティが高まり、情感を抑制した文体が…

2021年7月に読んだ本まとめ

水底の女 水底【みなそこ】の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者:チャンドラー,レイモンド 早川書房 Amazon 私立探偵フィリップ・マーロウが主役のシリーズ第四作。ミステリとしてギミックや構成の一般的な評価は特に高くないらしいが、自分がここまで読んで…

2021年6月に読んだ本まとめ

蜜のように甘く 蜜のように甘く 作者:イーディス・パールマン 亜紀書房 Amazon 老いと幼さとが同居しているような、淀んでいながらも透明な空気。直截にりんかくを辿らずに光の屈折でモチーフをとらえる文体はトレヴァーと類似するが、パールマンの方が被写…

2021年5月に読んだ本まとめ

〈わたし〉は脳に操られているのか 〈わたし〉は脳に操られているのか : 意識がアルゴリズムで解けないわけ 作者:エリエザー・スタンバーグ インターシフト Amazon 脳が単なる電気信号のやり取りで動くシステムに過ぎないのなら、人間の感情や“自由意思”に果…

2021年4月に読んだ本まとめ

炎と血 (Ⅰ,Ⅱ) 炎と血 Ⅰ 作者:ジョージ R R マーティン 発売日: 2020/12/17 メディア: Kindle版 炎と血 Ⅱ 作者:ジョージ R R マーティン 発売日: 2021/01/26 メディア: Kindle版 当世最高の異世界ファンタジーシリーズ「氷と炎の歌」のスピンオフである前…