2021年6月に読んだ本まとめ

蜜のように甘く

老いと幼さとが同居しているような、淀んでいながらも透明な空気。直截にりんかくを辿らずに光の屈折でモチーフをとらえる文体はトレヴァーと類似するが、パールマンの方が被写体と同一化するに近い距離感だろうか。 

 

 ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ

 作者が数年に渡って更新しつづけたブログから選出されたナンセンス短編と、有名作家の写し取りを学生時代から続けてきた中から見えてくる創作の意味を綴るエッセイ、多少は実体験の気配も漂う書下ろし中編小説から構成されており、その大部具合からしてすでに意図が込められている。日本人作家はなぜ私小説の割合が高いか、また現代の文筆家においてリミックスの枠を超えることに意義があるか、そしてこれからも積み上げられていくであろう反復の文字列たちに果たして意味は見いだせるのか。様々な想起がポップアップしてはじけていく読書体験だった。

 

扉はひらく いくたびも

竹宮惠子先生は意外と発表作品数が少ないのだなあという印象が読後にある。ご本人が真にのぞんだかのぞむまいでか、キャリアの半分かあるいはそれ以上の割合で漫画界全体のイメージアップや後進教育に熱意を注がれており、融通のよく利く多彩な表現者なのだとよく分かる半生記だった。記者による聞き取りからの構成だけど、接続に不自然さもなく読みやすい。戦中は諜報員だったという父上の印象が鮮やかな幼少時代が、目に浮かぶようなイメージの強さ。 

 

フロスト詩集

 脳科学の現状を解く本の中で、認知のヴァリエーションの一例を示すために引かれていたのが『Stopping by Woods on a Snowy Evening』、馬車を雪の野原に止めて、夕暮れの静寂に耳を澄ますというシチュエーションの詩。アメリカの国民的詩人であるフロストの代表作として真っ先に挙げられる有名なものだそうだが、自分はこれまではっきり意識したことがなかった。野良仕事や寂しい郊外暮らしの中に浮かぶあえかな想念を素朴な単語で構成する作風で、しばしば耐えがたくなる現実から孤独な詩情を地道に掬い上げる、しかし当の詩人はそれを骨折りとはさらさら思っておらず、自然の無心さに微笑みさえする。そんなしなやかな強さから常に励まされたいと思ってしまう。