2021年12月に読んだ本まとめ

ギケイキ(Ⅰ,Ⅱ)

一冊目は頼朝とともに平家打倒、源氏復興に立つまで、二冊目は兄の頼朝に政敵とされて都落ちする中で愛妾の静と別れるまで。現代日本に意識を置いたままらしき九郎判官義経が、くだけた口調で自らの生涯をふりかえる。下世話な部分に眼光鋭く光る人間観察が明滅し、淡々と綴られる戦記部分に人と人の間に白刃閃いた中世の凄みが潜む。ユーモア小説かと軽く手に取ったが、綿密な取材にのっとった大作読み物だった。完結編も楽しみ。

 

トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン

一家が暮らす様は「ラ・ボエーム」の世界そのままだったという証言もある文化的にも階層的にも恵まれた家庭で生まれ育ったヤンソン。しかし詳細にその生涯を眺めると、従軍経験がある父との政治的衝突や、伝統絵画の道とイラストレーションや作家への適性とに迷った青年期、ムーミン人気がワールドワイドに達してからは多忙に心悩まされる日々、一般的規範に沿わない気性と性傾向ゆえに固まらない社会での立ち位置と、芸術や愛に真摯なゆえに一筋縄にはいかなかったその内実が明らかになる。そんな中で長年のパートナーとなったトゥーティッキや、彼女と同じほど強い絆をむすんでいたかにみえる実母との愛情のこまやかなやり取りに、何よりヤンソンの素の人柄を感じた。それにしても、自らが計画して建てた小屋のある島で、岩辺に嬉々としながら発破をしかける彼女の姿は、まさにムーミンシリーズの登場人物のようで想像するだけで楽しくなる。