2022年11月に読んだ本

大正女官、宮中語り

大正天皇時代に女官として仕えた(当時、側室制度は廃れていた模様)女性の老境に聞き取りを行ったその記録。読んでいる内にこそばゆく感じてくる宮中ことばがなんとも印象深い。皆で百貨店に買い物に行った思い出などなど。退官したあとは割とふつうに民間に嫁入りしていたりと、特殊な職業の具体例として興味深く読んだ。あと同僚同士の写真がいくらか収められており、当時の美人像について思いをめぐらせられる。


民主主義のルールと精神 -- それはいかにして生き返るのか

ポピュリズム権威主義独裁制フェイクニュース… 民主主義の危機だあ?うだうだ言ってる暇あったら走んだよ!なぜなら登り始めたばかりだからな、世界人類はこの代表制民主主義坂をよ・・・という内容。まずは冒頭で釘を刺される。別にトランプとかに投票する有権者は馬鹿とかじゃねーから‼そこまで単純な思考で投票してるわけじゃないからなと。そこから続々と紹介される現代の欧米民主主義混乱最前線。地獄めぐりを見せられているような暗澹たる気持ちに襲われるかと思えば、著者のカラっとした語り口、天才的な中立バランスにより段々に分かってくる。そもそも代表制民主主義に正解もゴールも、完成形すら無いのだと。自分はこれまで、二つの大戦を経て人類がようやく得た政治体制としての"民主主義(ここ大文字)"は毀損されるべきでない確固とした形があるものだと思い込んでいた。ゆえに21世紀に入ってからの民主主義発祥の場所である欧米諸国の政治の混乱は、歴史の後退にしか見えずに怯えるばかりだった。しかしそれは甘えた思考停止だったように今は思う。ずっとモチャモチャと有権者たちで揉み合うしかないのだと。その手続きこそが意味がある事に倦んではならないという心構えを見つけた気がする。なお、作者はただ冷笑スタイルを気取っているわけではない証左に、巻末で民主主義の最低限守るべき2つのルールを挙げている。一つは、他の有権者の政治参加を阻まないこと。そしてもう二つは、事実と反する主張を議論の中で持ち出さないこと。これらのたゆまざる均衡の中でこれからも民主主義を磨いていくしかない。それは明るい導きの光とは言えないが、さまざまな混線の雑音の中から、個人の力を駆使して一人ひとりが行い続ける以外にやはり道はないらしい。