2021年8月に読んだ本まとめ

植物忌

 植物が人体と融合する近未来の日本を舞台に、異なるシチュエーションの短編によるオムニバス小説。ジェンダーの可視化がサブテーマとなっていることでよりアクチュアリティが高まり、情感を抑制した文体がカラフルでフレキシブルな絵巻となって脳内に蔦を伸ばすような、開放感と閉塞感とが同時にやってくるスリリングさがある。

 

グスコーブドリの太陽系 -宮沢賢治リサイタル&リミックス-

朗読会の舞台で語りなおされる宮沢賢治作品。一人蚊帳の外に置かれた形ともいえるザネリの心理に着目した章がいちばん印象に焼き付いた。冒頭に置かれた鳥捕りの子供たちのエピソードの詩情も響く。

 

飢渇の人

短編というくくりの中でも更に短めの小品と、トリに収録された表題作とで構成された寓話性の高い日本オリジナルの一冊。読んでいるだけでオブジェクトがまとうホコリがノドにつまっていきそうな疑似感覚の横溢はすべての作品に共通。たとえばお互いが同じタイミングで死ぬことだけを望む老夫婦が迎える“客”から展開される短編の切なさが、五月革命の混乱を背景にした孤独な者たちを描いた中編でさらに高まっていく。人はパンのみに飢えるわけではない。息の根が止まっても響きつづける叫びがある。

 

機龍警察<完全版>

テレビアニメで言えば4~5話分ぐらいで収まりそうな、冗長な構成にならないようにさりとて物足りなさも覚えないぐらいの、娯楽としてのギリギリのバランスを追求した印象の読み心地。主人公が拉致されてから、一度場所を変えて当局の捜査を攪乱するぐらいの引っ張りはあった方が良かったかもしれない。巻末付録としてあるメールインタビューなどからも明らかなように、作者はあえて戯作っぽさと現実の人間のリアルな心理描写とを織り交ぜていて、その繋ぎのコントロールによって人間が中に乗り込む等身大ロボットに近いパワードスーツという“大きな嘘”が浮かないようにしており、警察小説とSF読み物との融合の成功例として挙げるに躊躇されない。続くシリーズでは組織の腐敗具合にさらに足を踏み入れる事は避けられないと思われるので、その点に注目して読みたい。