第67回2023冬調査

アニメ調査室(仮)さんにて開催中。以下、回答記事です。

(リストは次の行から)

2023冬調査(2022/10-12月期、終了アニメ、47+2作品) 第67回

01,忍の一時,x
02,後宮の烏,x
03,風都探偵,z
04,虫かぶり姫,x
05,不徳のギルド,x
06,チェンソーマン,A
07,恋愛フロップス,x
08,惑星のさみだれ,x
09,アキバ冥途戦争,x
10,モブサイコ100 III,x
11,ぼっち・ざ・ろっく!,x
12,転生したら剣でした,x
13,新米錬金術師の店舗経営,x
14,うたわれるもの 二人の白皇,x
15,機動戦士ガンダム 水星の魔女,F
16,マブラヴ オルタネイティヴ 第二期,x
17,悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました,x
18,ピーター・グリルと賢者の時間 Super Extra,x
19,シルバニアファミリー フレアのハッピーダイアリー,x
20,農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。,x
21,勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う,x
22,ある朝ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生,x
23,聖剣伝説 Legend of Mana The Teardrop Crystal,x
24,Do It Yourself!! どぅー・いっと・ゆあせるふ,F
25,ヒューマンバグ大学 不死学部不幸学科,x
26,PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL,x
27,名探偵コナン 犯人の犯沢さん,x
28,ポプテピピック 第二シリーズ,x
29,ヤマノススメ Next Summit,x
30,うちの師匠はしっぽがない,x
31,4人はそれぞれウソをつく,x
32,宇崎ちゃんは遊びたい!ω,x
33,SPY×FAMILY (第2クール),x
34,VAZZROCK THE ANIMATION,x
35,サスとテナ シーズン3,x
36,夫婦以上、恋人未満。,x
37,BLEACH 千年血戦篇,x
38,令和のデ・ジ・キャラット,x
39,(10月終了) シャインポスト,x
40,(10月終了 リメイク版) ドラゴンクエスト ダイの大冒険,x
41,(2期 バゲット版) がんばれ!長州くん,x
42,(2019年版) ポケットモンスター,x
43,(全8話) ハーレムきゃんぷっ!,x
44,(ネット配信) 夜は猫といっしょ,z
45,(ネット配信) 兄に付ける薬はない! 5 快把我哥帯走5,x
46,(最速局で1/15までに放送された場合有効) 異世界おじさん,F
47,お昼のショッカーさん,z
参考調査

t1,(参考調査 全8話) アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】,x
t2,(参考調査 全6話) 万聖街,B

[寸評]
チェンソーマン」:A このアニメ版第一期では“アキの心がデンジとの出会いによって再び開かれる過程”が最大の軸だった。それを見事に印象づけたシリーズ構成がなにより上質。
「万聖街」:B 作画の懲り方のポイントが、微妙に日本作品と違っていたりして見どころの多かった中国アニメ。個人的にはもうちょいBLっぽさを期待していた。

2023年冬(第1クール)アニメ所感

今期はひさしぶりに自分の好みに合うシーズンになりそうなので、視聴継続しそうな作品をリストアップしてみます。順番はdアニメストアで更新される曜日順。

The Legend of Heroes 閃の軌跡 Northern War
近世ヨーロッパ風ファンタジー戦記。怪物倒しと政治劇がストーリーの二本軸となる模様。たぶんゲーム原作。少女戦士が主人公なのだが、朴訥な人柄っぽいのが新鮮。佐藤英一監督は職人系ディレクターとして私は好感を持ってる。

アルスの巨獣
こちらも同じく近世ヨーロッパ風の舞台に、怪物倒しと…ずいぶん被ってるね?まあこういった偶然はアニメ放映ではよく起こるよね。ただしこちらは完全オリジナル企画の模様。事前期待からの上昇値としては今期イチ。SF小説家の海法紀光をシリーズ構成と脚本に招聘しただけはある第一話からの世界観の完成度に興奮した。てへ♡系ロリータキャラにみえるヒロインもハウス名作劇場の人物並みに息づく実在感が肌触りとしてあるのが良い。主人公の方は隠された資質を小出しにされていく作劇で、それも好み。あ、ジブリっぽくも少しあるね。ジブリというかラピュタ

吸血鬼すぐ死ぬ2
第一期よりやや勢いまかせの演出かなとも感じたが、ジョンが変わらず可愛ければそれでよし。あとこの作品の建物密度、自分の中の横浜のイメージにしっくりきます。

テクノロイド・オーバーマインド
気温上昇で人間が働けなくなった世界で、アンドロイド少年4人が自分たちのエネルギー代を稼ぐためにパフォーマンスコンテストに出るというなかなか個性的な出だし。もしかしたらちょっとしたら飽きるかもしれないけど(またシンガーユニットものか)という先入観を飛ばしてくれるような爽やかな空気があった。かっこ付けから意図的にテンポ外ししている案配もいいと思う。四人で縦に乗る水上スクーターの移動シーンとか。

TRIGUN STAMPEDE
デザインがリファインされたヴァッシュがかわいい。 一つの"あたらしい古典的人気作"を再構成してフルCGアニメとして送り出すのは勇気のいる挑戦だったと思うけど、思い入れのない身としてはより新鮮に楽しめていい。

NieR:Automata Ver1.1a
これも覚えづらい番組タイトルだなあ。原作ゲームは名前ぐらいは知ってる。人間のかわりに戦争をする美少女/美少年アンドロイドたちの抒事詩をドライな演出で描くという作画リソースのかかりそうな趣向だが、第1話は満足のいく出来。

もういっぽん!
おそらく組み合いのアニメートに非常に手間がかかるので滅多につくられない柔道競技がテーマ。そこに女子高生グループの自然な掛け合いが織り込まれるのでとても自然に楽しめる。サバサバ女子高生がモテモテ同性ハーレムの中心にいるというのも、乙なもんですな。


僕とロボコ
前期からの継続。全話はずれ無しで笑えて凄い。やはり大地監督のミニ枠ギャグアニメは至高だ。

敗れし者たちがステップを踏むとき ~2022年アニメいろいろ~ 

 2022年のアニメは…と思う時、サイエンスSARUが送り出した姉妹作品「平家物語」と「犬王」の二つが真っ先に浮かんでくる。これらは結局何を謳っていたかというと、共感による交換性という"宝物"はつねに精神と呼ばれる"海"の底に眠っているという確信。それをできるだけ多くの人に伝えるためにアニメーションを創り続けるという宣言のように自分は受け取った。TVアニメシリーズ平家物語において加害側に位置する平家一門と、被害者の代表的存在であるびわが語り合う内にストーリーの発端に置かれた社会階層からくる感情の断崖は徐々に埋まっていく。そしてクライマックスである壇ノ浦でびわが徳子の手をつかみ引き上げようとするカットで、いよいよ立場の逆転は決定的になり、踏みしだかれた側が搾取した側に"それでも生きよ"と告げることになる。それは復讐であり、叱咤であり、認容であり、友愛の証しだった。劇場アニメ「犬王」では、舞踊による回転のイメージが鮮やかに脳内に焼き付けられる。柔軟な身体が歌曲のリズムに乗って回り回り回ることで浮世の硬く固められたシステムが廻って上下が逆転する瞬間が訪れる。ここでもまた逆転、それも支配性によらない精神の自由な運動としての逆転がテーマ表現の上で重要視されているのだ。「犬王」においてはその逆転はあえなく権力が振るう暴虐で潰された。しかし犬王と友魚、そして名もなき生者と死者が共有した昇華の瞬間は路上の辻に千年を超えて形のないものとして残ることが描写される。

 あまりテレビアニメを視なかった年(そしてこれからもそうなる目測)であるのだが、その中で目新しいトピックスといえば中国スタジオが制作したシリーズに見どころが多かったという点。犯罪サスペンスと異能力ものを掛け合わせつつ、現代中国の若者から見える風景を捉えた「時光代理人。劇場版から五分割することで魅力が再確認された「羅小黒戦記」とペアで放送枠が取られた「万聖街」は日本のメディア企業のローカライズの巧みさとともに、中国のクリエイターたちが未開拓の領域の上で伸び伸びとアニメを作っている楽しさが視ているこちらに伝染するようで、相当に新鮮な感触を得た。ファンシーとナンセンスとアクションという要素の組み合わせ方も滑らかでコメディアニメとして出来は上々。キャラメイクも愛らしくかつヴァリエーションが広い。

 今年の日本制作オリジナルアニメというと自分が視ていた範囲では(またもや)サイエンスSARUの「ユーレイデコ」。正直いって面白かったかといえばうーん…となってしまうのだが、ジェンダーレスなキャラクター扱いや社会格差へのテーマ選び、ユーザーインタフェース進化という観点など企画の立て方は十分に挑戦的だった。この傾向でさらに構成とドラマ演出が強化されることを期待。

 映像処理の豪華さに裏打ちされた作画の端整さといえばジャンプアニメ2作鬼滅の刃 遊郭編」チェンソーマン」。前者では虐げられた人々の暗い情念の暗喩となる夜の炎上や戦闘の技で飛び散る火花などが強く印象に残った。対照的に後者は掴みどころがないほど複雑化した現代社会そのものがテーマとなっているクールな作風であり、アニメ化に向いているとはいいがたい面も多々あったものの崩れないうえに動きに工夫が絶えない作画面の充実、毎回変わるエンディング、そしてブレない構成と演出という破格の注力と意志とで傑作に仕上がっている。今年放送されたテレビアニメでもっとも楽しみだった一作に挙げたい。

 もうひとつコンスタントに視ていた原作付きアニメは「ちいかわ」。朝のワイドショーのミニコーナーだが、放送後のYoutube配信でチェックしていた。原作のテイストをこまやかに拾っている点では地味に並ぶものがない凄みのあるアニメだった。傑作回はいくつかあるが、ハチワレがギターをつま弾きながら歌うだけの"ひとりごつ"をベストに推したい。

 一方、劇場アニメは国内も海外からもかなり数が多く上映された印象。個人的な理由からなかなか行けなくて見逃した作品が多く心残り(特に「アンネ・フランクと旅する日記」と「RE:cycle of the PENGUINDRUM〈後編〉」)だ。そんな中から厳選して足を運んだシチリアを征服したクマ王国物語」神々の山嶺の面の塗りの美しさを強調した画面づくりは一幅の絵画を眺めているような満足感。人生や世界に敷衍がひろがるテーマ性もさりげなく遠景としてコンセプトに含まれるのはヨーロッパ文化の厚みと今年も感じた。

 最後はNetflixオリジナル群。今年もやっぱりネトフリアニメが私の視聴主戦場。出来からいうとスプリガンの映像クオリティと諸要素バランスの見事さには本当に舌を巻いた。原作の古さをまったくハンデとしないものが視られるとは完全にこちらの予想を上回っていた。かといって少年漫画としてのドラマの温度感も残されており、文句の付けようがなかった。小林寛監督が新ガンダムで抜擢されたのも納得。オープンワールドRPGを原作としたサイバーパンク:エッジランナーズはTRIGGER色全開ながらも既存のスタジオイメージを押し拡げたことでエピックにふさわしい。ポーランド発ゲームの乾いたニヒリズムあふれる世界観が、人体パースと動画タイミングを自在に操る日本アニメの一系統と滑らかに融合しており、地面に近くかがんだような視点で作品を送り出すネトフリらしさでいえばジャンルを超えて今年屈指のコンテンツ。人死にの無惨さに眉をしかめつつ、血がふきだすテンポの良さに思わず痛快さを覚える。ゾンビ映画だ。これは世界そのものがゾンビ化した近未来を描く映画だったんだ。でもテーマは青春期の純粋な感情です。それで矛盾してない。なんでコンテの遠心力で構成要素がバラバラにならないんだ?…みたいに問いたくなる傑作。ぐでたま 母をたずねてどんくらい」OLM制作のCGアニメ。厭世的な生卵ぐでたまが張力ゆたかな白身やカラザを時に駆使しつつ、仲間のしゃきぴよ(モーションも声も悶えるほどかわいい)と旅をする。人間たちの実写部分との擦り合わせがストーリーとしても映像としても融合度が高く、その土台となる脚本と構成担当の加藤陽一の才気がこれでもかと走る。攻殻機動隊SAC_2045」は完結編となる第2クールが二年のブランクを経て配信。エビデンスのない妄想でも、現実と同じくらい共有された時には両者の価値は並んでしまうという昨今のSNSでの混乱を反映させたようなアクチュアルなストーリーにはかなり意表を突かれた。そして衒学的なプロットとは裏腹にB級アクション的描写がふんだんに盛り込まれていた辺り、やはり食えないスタッフだなと。海外製作アニメでは、ストップモーションアニメ「家をめぐる3つの物語」にゴージャスな印象を残された。不動産に執着する人々へのシニカルな視線を、愛らしかったり不気味の谷に留まっていたりする人形を用いて短編ストーリーに。その質感がフェティシズムの歓びを刺激して、同時に生々しさが時に過ぎてしまっている描写に身震いさせられたりとこれもネトフリならではのエッジなコンセプト。オムニバス構成も効果的に配置されていた。昨年リリースの「ウィッチャー 狼の悪夢」と同じくスタジオ・ミールが制作を担当して、古典的な器に現代的なテーマがよく映える秀作としてシリーズが完結したのが「DOTA:ドラゴンの血」。(例によって原作のゲームについてはまったく知識がない) 当初はドラゴンと肉体を共有する屈強な青年騎士が主役だったのだが、シーズンが進むごとに彼と恋仲である流浪のプリンセスがストーリーの中心となっていく。その構成自体にはやや疑義を持たないでもなかったし、プロットの流れが同じようなループを幾度か描いていて掴みづらいなどの不満もあるのだが、先人が重ねてきた文化への敬意やそれをストーリー上で自然に活かす素養に裏打ちされた脚本、そこへ厚味を加えた演出の安定度には、ファンタジー活劇よりも宮廷会話劇に重心を移す後半に行くほど魅了された。個人的観点に過ぎないかもしれないが、今年のアニメには社会の周縁に置かれた者にスポットを当てたコンセプトが目立つ。ところで、重ねて告げるがこの「DOTA:ドラゴンの血」はネトフリに本当に多く転がっている西洋中世的世界観の剣と魔法のファンタジーの一つだ。しかしこの作品の1シーンで、自分は今年もっとも魂に届く感動を与えられた。それは亡国の王女が世界線を転移してしまい、かつていた場所では既に亡くなっていた狂える父王に指針を乞う場面だ。妃を亡くして以来痴呆状態に陥る時間が増えていた王は、何が現実かすら見失って孤独に打ちひしがれる娘にこう告げる。誰も愛する子や親を悲運から守りきることはできない。だが"愛"とはなにか。それは危難や苦痛を取り除くことではなく、何があろうともあるがままの世界でともに生きる事。文面上はなんという事はないメッセージだ。しかしもう一つの現実からひとり遷移されて言葉に尽くせない孤立状態にある王女と、すっかり耄碌したと見なされてほぼ廃位の状態にある父王との間でそれが交わされる時、シーンには別の角度からの光線が当たってくる。世界から排除され自分の中でさえ何が正常なのか分からない者同士でも、愛について語り励ましあうことは出来るのだという表明。それを、何ら目新しい材料はなく手垢さえ付いたテンプレート上で細心に組み立ててみせたクリエイターたちの手業に私は魅せられた。作品は構成自体でいくらでも新しい驚きを生むのだと、受け手として再確認できた瞬間だったのだろう。

2022年12月に読んだ本

アホウドリの迷信

二人の翻訳者が、近年の英語圏短編小説から気になる作品を持ち寄る形式のアンソロジー。意図せざる結果と思うが、男女比率は1:7で女性作家が多い。主観と客観のあわいが溶けていくスタイルの独特な印象のものが多く、全体的にダウナーというか気だるい雰囲気の一冊だが、合間にはさまる編者ふたりの作品への感想を語り合う対談で興味がたるまず読める面白い構成になっている。ケリー・リンクが大好きな自分としては、マジックリアリズム的な二作『「野良のミルク」、「名簿」、「あなたがわたしの母親ですか?」』(サブリナ・オラ・マーク) と『アガタの機械』(カミラ・グルドーヴァ) が大当たりだった。言葉遊びの技で、救いきれない誰かの生にひとときのスポットライトを当てる営み。やりきれないけどそれだけではないストーリーたち。


地図と拳

義和団の乱から太平洋戦争までを、複数の登場人物の視点を交替させつつ群像劇として激動の時代を描き出す。綿密な取材と独自のアイデアで織りなす堂々たる長編に仕上がっており、こんなスケールの日本小説には久しぶりに当たったなという興奮をおぼえた。"建築"という個人の創造的な意志と、"暴力"という破壊への集団性の衝動とが大陸の上で交錯する。膨大なプロット、数々のサブエピソードを繋いでいく様子は、主人公の須野明男が設計図を引いていく姿とメタな印象で重なり、集団の中という条件から決して逃れられない個人の可能性と無力さとを、明男の視点と一体化しながら代わる代わる味わうことになる。粘り強く主観と客観のバランスを取った描写を積み重ね破綻なく構成が練られた力作で、だからこそ終章でシンプルすぎる二つの言葉にまとめる形を作者が選択したことが画竜点睛を欠いていて残念だ。

2022年12月に観た映画

ある男 ('22 監督:石川 慶)
 石川監督はデビュー作「愚行録」以降、少しずつ作劇や演出にウエットさを加えていっており、たとえば本作では弁護士がファイルを顧客の前でバンと叩きつけるカット、ジムのオーナーが煮え切らない弟子の態度に激昂するシーンなどは、本来はもっと滑らかに前後と接続して描写できると思う。だけれど、おそらくは商業的要請を受けてしまっている。そこは少し残念。
 だが、品行方正なエリート街道を歩む人権派弁護士が、まるで自分という植樹を自分自身で切り倒したいかのような謎めいた行動を取るエピローグ(背後には幻聴としての木こり音)の余韻はこれまでのどの作品より見事だった。それらと山間にひっそりと暮らす文具店一家の心の落ち着きのパートとはきちんと調和が取れており、全体としてバランスはかなりいい。

MAD GOD(’21 アメリカ/監督:フィル・ティペット
STAR WARSなどで活躍した特殊撮影の達人によるオリジナル企画のストップモーションアニメ。いったんはお蔵入りしたもののクラウドファンディングにより完成したという一時間半のプライベート感あふれる作品。ずっと地獄めぐりのような光景がスクリーンに映し出され(ベチョベチョグチャグチャしてないシーンは0.5割ぐらいしかない)言いようもなくエグくグロい画面なのだが不思議と自分は故郷に帰ってきたような穏やかで落ち着いた気持ちになっていた。宗教的だが猥褻なまでに威圧感のある巨大なフィギュア像、人体か動物の死骸が並んでいるのか区別のつかないライン工場。すべて自分の悪夢の定型でおなじみだったのである。ストーリーの流れはほとんど掴めなかったが、描写として起こる整然とした理不尽な社会構造は実生活上での遭遇とさほど印象として違いはなかったので、分からないけど理解るわーと、時折気持ちよくレム睡眠に導入されながらも興味深く観終わった。特に記憶に残るのは、実験対象らしき数体が捕らわれた部屋の扉を開けて閉める潜入者のシーン、同じく潜入者が紐人間みたいな一体と見つめあいつつ見捨てる場面、あとナースがうなぎの寝床みたいな私室で眠ろうとして赤子の泣き声の幻聴に目をパチッと開けるカット。陰惨な雰囲気は漂わずに全体としてユーモアというかペーソスに覆われた箱庭的世界観なんで、わりと間口は広いんじゃないかと思う。観客席に若いグループやカップルの比率が高かったし。

2022年9月に読んだ本

愚か者同盟

60年代のニューオーリンズ。初老の母と二人暮らしの自称哲学者イグネイシャスは、無職の身から脱せねばならなくなり、傾きかけた縫製工場の事務員や路上ホットドッグ売りを経験する。我を通して独自の理念で動く上に大柄で風変りな彼はどこに行っても混乱をまき散らし、関わった人々の間にひとつの激しい渦を起こす結末へと物語は進む。映像的なセンスでクルクルと場面が小刻みに移り替わる章立てはテンポがよく、描写は適度な濃さで取っ付きやすい。マイノリティへの個々の背景に視点をあてる姿勢はポリコレが注目される現代を先取りしているかのようで、それによって弱者への理解を深める企業経営者というストーリーにはいくばくかの甘さも入っている気がするが、アメリカという国の雰囲気、当該キャラクターのそれまでのお人よしプロットなどでバランスはギリギリ取れている。現在まで続く社会の様々な諸問題-パワハラレイシズム・属性差別-が織り込まれているが、切り口はあくまで軽妙で何度も笑いをこぼしながら読んだ。それにしても、イグネイシャスの老母が自分自身の人生を取り戻すことで結果的に息子の自立を促すことになる終盤の流れるようなリズムはほんとうに映像的で美しい。

ワーニャ伯父さん/三人姉妹

親族のために自分らしく生きることを犠牲にしてきたと、内心で鬱屈を抱えていた独身のワーニャ伯父さんが亡き妹のかつての夫に怒りを爆発させるのだが、その絶妙なせせこましさがかなりリアルに感じられる。それに比べれば伯父さんの姪のひそやかな悩みはまだまだ解像度が甘い気がするが、彼女にはまだ若さが残っているという点を加味すれば妥当なストーリーテリング。心傷ついた者同士、ひっそりとした田舎でなるべく穏やかに神への感謝を忘れず生きていきましょう、という非常に現代にも通ずるテーマで深く感じ入った。これから折々に読み返そうと思う。同時収録されたおなじく戯曲の「三人姉妹」も、内なる良識をかえりみることなく行動するタイプに振り回される地味な人々のやりきれなさを描いていて癒された。ともかく老女中が救われてホッとしましたわ。チェーホフグッジョブ.

2022年10月に読んだ本

骨は知っている

法医解剖学者が実際の犯罪解明のための職務に際して感じたことなどを織り交ぜながら、様々なケースを追う。殺人事件としてはすっきりと解決しないながらも、被害者が受けた恐怖や苦痛などは鑑識の結果から浮かびあがり、その微細さについてはやはり驚きを禁じ得ない。特にごく近い血縁者から性暴行を受けていたゆえに自殺してしまった少年の解剖結果から、強い心理ストレスが原因で骨の特定部位に刻まれる痕が見つかったことで真相が明らかになる章はあまりのいたましさも含めて圧巻だった。


燕は戻ってこない

まちがいなく桐野夏生の最高傑作のひとつ。人の心は関係の中で、自分すら思いもかけない方向に転がっていくという観点をここまで懲罰意識なしに伸び伸びと描き出して、ほんのちょっと先の社会像まであざやかに示してみせるこの自由な精神。この作家は現代のユゴーだよ。同時代に生きられて誇らしくさえ思う。厳しい批評眼はやがて愛へと至るという運動が芸術と同時進行する奇跡の業を目撃せよ。(本書でいえば居酒屋でりりこがサラリーマンたちとセクシュアリティ談義をするあたりで空気がぐっと広くなる)