2021年10月に読んだ本まとめ

文体の舵をとれ  ル=グウィンの小説教室

ル=グウィンの果敢で明晰な口調で実践的に文章を綴るための例題が繰り出されるので(テーマと仮説するための内容のアイデアまで提供してくれる!)、読んでいるだけでもワクワクしてくる。後半に進むと例題のための意図説明よりも、小説を綴る際により美しく精確に文章を操るための注意点と心得に重心が移っていき、それはすなわち彼女が先達の名作をいかに瑞々しいレンズで自らの内側に摂り込んできたかを辿るエッセイにとしても読めるということ。トウェインやウルフの文章の見事さに感嘆する形容はそれだけですでに詩を読んでいるかのように光を放つ。それにしても、この本の精緻な特性から想像するに翻訳者もまことに大変だったろうと思う。

 

世界文学アンソロジー

旧世紀に各家庭に普及した文学全集と比べて、中東からアフリカ、アジアの割合が高くなっているところに時代の流れを見る。そして、より切迫感のある直截的なイメージで静かに訴えてくる作品が多い点も、現実と文学との距離感が以前と変わってきている事を意識させられる。イサーク・バーベリ『騎兵隊』で綴られる戦場の蛮性からの救いどころのなさは中でも強く印象付けられた。“私の最初のがちょう”の首をへし折る感触を忘れられないまま生涯をおくるような人間はどう生きればいいのか?答えそのものは文学に置かれていない。ほか、知っていると口にすることで知りえない世界へと逆接されるファン・ラモン・ヒメネスの詩『わたしはよく知っている』、百合小説と呼ぶにはあまりに息苦しい密接した感情を伝えてくるコレットの『ジタネット』など。九つの章に分かれているが、どれも声なき者の声を伝えていくコンセプトで編まれており、その点も優れて現代的。

 

もっと知りたい尾形光琳 生涯と作品

順調なことばかりではなかった光琳の生涯が、作品紹介と同じほど行を割かれているのが印象に残った。同じ琳派で作風が似ている若冲と混同していたところが自分はあったんだけど、これでずっとお金に困らなかったのが若冲”と覚えられたな…