2022年2月に読んだ本

掠れうる星たちの実験

サリンジャーへの作家論である表題作を中心に新刊レビューと未発表作を交えた短編小説とで構成された割と変則的な一冊。この人の書評、わたしよく分かんねえな。でも文章の表面に目を滑らせているだけで気が落ち着くというか何かしらの満足感はあるので、やはり相性がいいんだと思う。今度はパロディやナンセンスから離れた短編集を読んでみたいな。

 

我が友、スミス

派手ではないものの安定した生活環境、精神状況。しかし何かが主人公である三十路のOLを連日の筋肉トレーニングへと向かわせる。出だしからコンテストの顛末まで、一貫して淡々としたリズムで綴られるが、その心の揺らぎはストレートな共感を呼ぶ。文体の表面をうっすらと覆うユーモアですら、リアルを生きる身には懐にひそめた短銃と同じ意味合いなのだと作者と読者の間に生まれる共犯関係。これは最先端の日本ハードボイルド。主人公にコンテストの道を示すトレーナーの性別が最初は明かされない先入観トリックや、ドラマクライマックスの直後に声をかけてくる存在の意外性など、中編ながらも長編に負けない印象の強いフックがいくつもある。