2023年3月に読んだ本

古代ローマごくふつうの50人の歴史

古代ローマに生きた市井の人々のドラマあふれる情景を彫ったレリーフ墓碑から分かる様々な職業。読みやすく、しかもローマという人類史において特筆すべき時代の解像度がグッと上がった。


ゆるい職場

若者はなぜ苦労して就職した仕事をすぐ辞めてしまうのか? 昨今、政府が推奨する働き方改革によって業務指導がハラスメントにならないように一定レベル以上の安定した職場においては新卒者は特に大切に扱われるようになった。しかし若者にはそこがむしろ自分のキャリアにとって将来的に不利な材料となるのではないかという疑念が湧いている可能性があるという視点には納得するものがあった。つまり業務そのものであるタスクには高負荷を求め、業務に付随する人間関係にまつわる面では低負担を要するのがこれからの企業の課題であるという。まあそれもこれも、それなりに余裕のある業績と規模を持った企業ならではの話であると思うとそこに滑り込めなかった自分としては複雑な気持ちも抱くのではあるが。


マーリ・アルメイダの七つの月(上・下)

かつて内戦があったスリランカを舞台に、それなりに裕福な家庭に生まれてフリーの撮影家であったゲイのマーリが幽霊となって地上と人間の闇をトレースする冒険に出る。放埓な性生活をたのしんでいたプライベートと、善悪の彼岸を綱渡りするようであったカメラマンとしての職業人の側面。汚職がはびこる混乱の国家の様子、格差の大きな街の二つの顔。淡々とした筆致で愛と憎しみ、欺瞞と誠実が交差する。スリランカを舞台とした小説はこれまで縁がなくその点でも、またストーリーの巧みさという意味でも忘れがたい読書体験となった。享楽的でありながらそれに徹しきれなかったマーリが最終手段として持っていた即効性の毒カプセルを用いる場面の哀しみの横溢、仏教徒としてのマーリがたどり着いた最後の情景。