フィールダー
書題は社会問題の当事者を指している。主人公が
ゲームフリークという設定から、実際に
バトルフィールドで応戦するプレイヤーというイメージから採られている。序盤は出版社に勤める三十代男性である主人公の、
コンプライアンスによって整地された安定の社会生活から始まる。取引相手である作家が児童性虐待者の疑いを掛けられたという案件を発着点として、その中でプライベートにおいてゲーム仲間である少年の可憐さにどうしようもなく惹かれていく戸惑いを経由する主人公の道程は、やがて破滅を予感される方向へ流れ行く。では彼がやがて感じるのは後悔なのであろうか。そうとは限らない。あらかじめフィールダーとして生きることを奪われている現代人において、満たされた実感とは何なのか。そして倫理のラインを厳格に引くことでほんとうに救われる存在は増えるのか? こんなにアクチュアルで切実な問いを投げかけて現実の複雑さを損なわないまま終着する小説をひさしぶりに読んだ。この作品がほとんど評価されていない今の文学界はどうなってるの?