2023年10月に読んだ本

最後の三角形

「タイムマニア」は片田舎で幽霊に導かれた少年が町の住民が複雑に絡む犯罪の謎解きをする。その過程でインフェルノを垣間見たり、同級生とのほのかな恋を経験するという一際ふしぎな味わいの一篇。グラント・ウッドの絵画を前にした時のような"のどかな無限地獄"としてのカントリー風景が脳内で浮かんでくる。表題作「最後の三角形」はミステリ仕立ての読み口、疎外という社会問題、そして徐々にあらわになるオカルト色と多層的な構造で忘れられない読後感を残す。なかでも印象を残されるのは恋愛のような関係性のあまりの幅広さ。多様性というイシューを無視できない作家としての誠実さも感じる。総じて、姉妹編『言葉人形』よりもややオポティミズム寄りでユーモアが漂う短編が多くまたロマンス要素も強め。技巧の精緻さはそのままに読みあたりはこちらの方が柔らかい。

 

寝煙草の危険

ただ自分らしく生きようとするだけで罰せられる。女性にとっての煉獄であるこの地上では、気付かぬうちに自らの失火で死ねる悲劇すら救いのある昇華行為なのかもしれない。表題作は孤独な老女の内面世界を綴ったものだが、他は集団の中で充足感と一体化した息苦しさを感じる様々な年代の女性の心象風景を感じさせる作品が多い。クイーンビーである人気者を無視できないティーンエイジャーが沼地から離れられない『湧水池の聖母』、中流階級住宅街がゾンビ群に侵食されていく様子にリアルな不安を感じる『ショッピングカート』が特に鮮烈なイメージだった。