戦う司書と黒蟻の迷宮

今回の主要人物モッカニアは精神を患い通常の戦闘勤務に着けないながらも、食人蟻を無限に生み出すという無敵の能力を保持する若者。その隠れ家である地下迷宮のみで現在時点の舞台が推移するというのだから、その限定性のあるバトルの予感だけでもすでに自分好み。さらに心理的および空間的閉鎖感を読み手の印象から寛恕するために、能力や容姿がモッカニアと正対しながらも通底する精神性をもつウインケニーという補助線キャラまで用意されているあたり、このシリーズの娯楽性と文芸性の並存レベルの高さは明らか。モッカニアとウインケニーはそれぞれ周囲からも浮いた孤独な存在であり、当人自身も決して表向きに心が通じあった証しは描かれないが、しかし彼らは決してひとりではなかった。ひとりぼっちの人は実は孤独であるがゆえに、より強く他人と結びついているという逆説的テーマは、シリーズ上で一貫していると現時点でも十分に予想される。