蝿(はえ) (異色作家短篇集)

蝿(はえ) (異色作家短篇集)

「蠅男の恐怖」や「ザ・フライ」等といったタイトルで何度も映画化されているモチーフの原作となったのが表題作。今の時代にはアイデアが素朴すぎて滑稽なんではと読み始めたけど、被害者の妻の手記で真相が明かされる展開になってからはぐいぐい引き込まれた。この手記によってサスペンスを呼び入れるという技法は後に収録された『彼方のどこにもいない女』での打ち明け話を聞いた第三者の語りでも同じ効果が上げられていて作者の技巧派ぶりが確かめられる。他、『悪魔巡り』や『最終飛行』などは叙情性のある文体が余韻を残すベクトルの違う佳品。