歩道橋の魔術師

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

かつて台湾の都市部に実在していた、広大な敷地に経ち、雑居ビルと団地が合体したような「中華商場」。そこで生まれ育った若者たちが、商場を結ぶ歩道橋にかつて浮浪者のように露天を開いていた“魔術師”を回想する形で繋がれる連作短編。村上春樹を思わせるドライな叙情と、台湾の気候風土から立ち上る暑い湿気とかが合わさった強いオリジナリティを感じる。文章技巧もすでに完成されたレベルにあり、この作品を読まずして現代の台湾文学界は語れないという感じだ。自分が中でも好きなのは『ギラギラと太陽が照りつける道にゾウがいた』と『鳥を飼う』。それぞれ青年期と幼年期の切なさが凝縮されている。それにしてもエピソードとしては凄惨といえる箇所もあるのに全体として淡白なのは、まだ社会に疎い子供の視点というスクリーンに映された世界であることを明確に印象させて、本当に上手いと思う。