世界文学全集 短編コレクションl

短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

同選集のヨーロッパ編にくらべると、やや情念の濃いセレクションという印象。魔術が日常に今も生きるアフリカの空気「呪い卵」(アチェベ)、イスラム教の戒律とそれから解放された恋人の間で振り子のように揺れる男の心情「猫の首を刎ねる」(アル=サンマーン)、沖縄方言で全編語られる不遇な女の一生が息詰まるほどの鮮やかで幻想的なビジュアルで圧倒してくる「面影と連れて」(目取真 俊)等々。中でも技巧で頭一つ抜けているのが「色・戒」(張 愛玲)。映画『ラスト、コーション』原作だそうだが、ストーリー展開をミニマルなまでにそぎ落としたこの短編をいかに映像化したかは、かなり気になる。それにしても、なんともやりきれなく美しい結末の作品。愛の発生とその断絶、絆と錯覚の蜃気楼同士のような関係の淡々とした描きぶりに眩暈を覚えるばかり。