2019年1月に観た映画まとめ

十年 Ten Years Japan (’18 監督:(オムニバス))

是枝裕和監督の総合監修により、若手5人が近未来の日本の姿を想像して短編をおくりだす。イメージの情感に大きく振れた地下シェルターで生まれた少女の物語『その空気は見えない』、逆に日常的なアングルで家族間の心の揺れから情報技術の進化を問う『DATA』の2作が特に印象に残った。

<DVD鑑賞した作品>

シャーリー&ヒンダ  ウォール街を出禁になった2人 ('15 ノルウェーデンマーク・イタリア/監督:ホバルト・ブストネス)

人生の終盤にさしかかったことにより、世界経済の不可解さに目をそらし続ける事に嫌気が差した親友同士のふたりを映したドキュメンタリー。彼女らは不調を抱えた身体を運びついには金融の本拠地へと乗り込む。そこでの親交会で突貫スピーチをした末につまみだす役回りの警備係にはエイジズムまるだしに小声で呪われ、受付係の気のよさそうな若者からは「みんな破滅が来る前に楽しもうとしてる。あなたも気に病みすぎないようにね」とアドバイスされる。これらはほとんど穏当の範囲に入るほどに淡々とした視点で記録されているので、より現実社会の欺瞞性にショックを受けることになる。その揺れはいまだに私の足元、地中奥深くで続いている。

コングレス未来学会議 ('13 フランス/監督:アリ・フォルマン)

アニメと実写の異なるパートを組み合わせることによって、幻影の世界に生きる未来の人々の姿を描く。データ化された役者の演じる演技は実物に並ぶことがあるのか?といいう芸術論、荒れ果てた現実の檻を越えて虚構の世界に耽溺することは救いとなりうるのか?という永遠に正解が出ないであろう問題を描くには十分に意欲的な企画の斬新さは感じたものの、どうも双方の連携がいまひとつ緊迫感に欠けるような気もした。

2019冬期のアニメ視聴状況

ブギーポップは笑わない」(BS11)

一大潮流を起こした原作だが、自分はほとんどこれまで触れることがなかった。王道と異端、それぞれの要素のバランスが非常に好み。ジュブナイルとして地に足の着いた脚本とアニメーションの特長を活かした演出とどちらも素晴らしい。

どろろ」(BS11)

こちらは原作を大分前に読んだことがあるが、記憶はそうとう薄れている。時代劇のいつ観ても古びない無常の色合いがきちんと踏襲された手堅さと、それに甘んじない隠し玉との気配。

約束のネバーランド」(BSフジ)

原作未読。画面から目が離せないほどに演出の好みが合うわけではないが、先の展開は十分に気になる。

賭ケグルイ××」(Netflix)

前シリーズでやりつくした感があったので、大丈夫かなと思っていたが、蓋を開けてみれば強敵感も展開速度もフルスロットルだった。OPとEDもどちらもパワーアップ。

 

<前期からの継続>

ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」(BS11)

メンバーの過去が描写され、敵チームも本格登場していよいよ本題突入。非常にスリリングでテンポがいい。作画も好調。

「風が強く吹いている」(ニコニコ動画)

第一期の屈折した感じが薄れたことで自分にはまぶしすぎる部分が出てきた。が、そんな因果なレベルの話とは関係がなく、これもいまどき奇跡的なまでに出来がよく志の高いアニメである。

第51回2019冬調査

アニメ調査室(仮)さんにて開催中。以下、回答記事です。

2019冬調査(2018/10-12月期、終了アニメ、50+5作品) 第51回

01,バキ,B
02,狐狸之声,x
03,でびどる!,x
04,イングレス,F
05,ひもてはうす,x

06,スペースバグ,x
07,人外さんの嫁,x
08,アニマエール!,x
09,やがて君になる,x
10,あかねさす少女,x

11,ゴブリンスレイヤー,x
12,となりの吸血鬼さん,x
13,その時、カノジョは。,x
14,色づく世界の明日から,x
15,寄宿学校のジュリエット,x

16,ゴールデンカムイ 第2期,x
17,うちのメイドがウザすぎる!,x
18,ガイコツ書店員本田さん,x
19,叛逆性ミリオンアーサー,x
20,宇宙戦艦ティラミスII,x

21,中間管理録 トネガワ,x
22,東京喰種:re 最終章,C
23,おとなの防具屋さん,x
24,ソラとウミのアイダ,x
25,ゾンビランドサガ,x

26,軒轅剣 蒼き曜,x
27,BANANA FISH,z
28,学園BASARA,x
29,BAKUMATSU,x
30,CONCEPTION,x

31,SSSS.GRIDMAN,F
32,RELEASE THE SPYCE,x
33,RErideD 刻越えのデリダ,x
34,BanG Dream! ガルパ☆ピコ,x
35,蒼天の拳 REGENESIS 第2期,x

36,DOUBLE DECKER! ダグ&キリル,B
37,アイドルマスターsideM 理由あってmini!,x
38,ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士,x
39,メルクストーリア 無気力少年と瓶の中の少女,x
40,おしえて魔法のペンデュラム リルリルフェアリル,x

41,終電後、カプセルホテルで、上司に微熱伝わる夜。,x
42,青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない,x
43,閃乱カグラ SHINOVI MASTER 東京妖魔篇,x
44,ほら、耳がみえてるよ! 畏,看見耳朶拉,x
45,兄に付ける薬はない!2 快把我哥帯走2,x

46,抱かれたい男1位に脅されています。,x
47,俺が好きなのは妹だけど妹じゃない,x
48,ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。,x
49,(10月終了) 進撃の巨人Season 3,B
50,(10月終了) マーベルフューチャー・アベンジャーズ シーズン2,x

51,(ネット配信) 衛宮さんちの今日のご飯,x
52,(特番) はたらく細胞 特別編 風邪症候群,x
53,(特番) 探偵オペラミルキィホームズ サイコの挨拶,x
54,(特番) 斉木楠雄のΨ難 完結編,x
55,(特番) ペルソナ5 Dark Sun…,C

 

[追加評価] 第49回2018年 夏調査

05,東京喰種:re,A

 

[寸評]

「バキ」B:格闘技アクションのはずがいつのまにか人生論ドラマを視ているようなシュールさがツボにはまるものの、終盤はさすがに迷走が目立った。そして続編があるか分からない終わりっぷりッッッ!!!

東京喰種:re 最終章」C:あるいは前章の丁寧さのアオリをくらってか明らかに尺が足りてないゆえに駆け足でプロットを消化する印象が強まってしまった。主人公の脳内世界や黒幕との掛け合いなど見るべきところは皆無ではなかったのだが。

「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」B:今期の2クールほしかったね作品。あのキャラポテンシャルならその方が良かった。作画が終盤息切れ気味だったのも惜しい。演出にLGBT時代の新しい息吹を感じられるのは良かった。

進撃の巨人Season 3」B:ヒストリア覚醒編。第一期でモブ一歩手前だったあの子がねえという隣んちのおばさんみたいな感慨がある。

ペルソナ5 Dark Sun…」C:メリハリが乏しく感じられるのはなぜなのか、本編同様に不思議だった。

(追加調査分)「東京喰種:re」A:ネトフリの宣伝に誘われて遅れて視聴。新人隊員たちのギムナジウムのような生活感がいい。アクションも充実で一気に視たくなる充実したシリーズになっている。

話数単位で選ぶ、2018年TVアニメ10選

今年も『新米小僧の見習日記』http://shinmai.seesaa.net/さん発祥の企画に参加させていただきます。

ルール
・2018年1月1日~12月31日に放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品から選べるのは1話のみ。
・順位はつけない。

 

(本年はNetflixオリジナルシリーズも含めてみました)

 

ポプテピピック

第7話『ヘルシェイク矢野』

高速紙芝居という伝説の十数分。演者二人が大変そうであると同時に楽しそうだったのが大変に良かった。

 

牙狼GARO>-VANISHING LINE-」

第18話『ILLUSION』

脚本:金田一明、絵コンテ・演出:添野 恵、作画監督:芦谷耕平、寺尾憲治、小田裕康

主人公側のメインキャラを一人も出さずに、敵の本陣である虚飾の街をホラーサスペンスタッチで。堀内賢雄さんの海外ドラマ張りの演技が光る。

 

バジリスク 桜花忍法帖

第12話『松籟、吹き抜けり』

脚本:大西信介、絵コンテ:中山岳洋、演出:中村近世、作画監督:ung Chul Gyo、Shin Min Seop Lee Sang Jin、総作画監督大塚あきら

味方パーティのひとり、七弦と母との過去の旅路。切なく儚く閉じた思い出は、後の回で思わぬ開陳をすることになる… が、それを含めても美しい。時代劇ならではの多層的なパースペクティブの感触。 

 

ひそねとまそたん

第4話『ヤツらが岐阜にやって来た』

脚本:和場明子・岡田麿里、絵コンテ:小林 寛、演出:蓮井隆弘、作画監督:稲熊一晃・斎藤香・堀川耕一・秋山英一・岐神麻芽・中山和世・春日広子、総作画監督:本城恵一朗

こういう感じに職場の新人顔合わせって多彩だったりするよなあと何か気持ちが若返った気持ちになる楽しさ。パートナーのドラゴンの偽装形態が全部違う機種なのもワクワクする。 

 

DEVILMAN crybaby

第6話『悪魔でも人間でもない』

脚本:大河内一楼、絵コンテ・演出:篠原啓輔、作画監督:和田直也

冒頭に男子高校生同士のゲイセックスがあるんですが、その行為が作品中のほかの描写とくらべて何ら特別にスキャンダラスでない演出を付けられている事に軽く衝撃を受けた(lainの女子高生マスターベーション並みの)。今年はほかに「ルパン三世 五期」でも自然なゲイカップルの同棲が描かれたりと、割とエポックだったかも。 

 

働くお兄さん!の2!」

第7話『働かないお兄さん・夏』

脚本:宇佐義大

これは全話通して視たというわけでない作品なんですが、たまたま無料配信で。主役コンビが片方の、長野県の造り酒屋である実家へ帰省するわけですが、持たざる側から、持つる者の苦労を偲ぶという通常とは逆転した視点に(やられた)となりました。それを受けてのリアクションがまた自然で。

 

重神機パンドーラ

第8話『雨の刺客』

脚本:大野木 寛、絵コンテ:西澤 普、演出:小野田雄亮、作画監督:ハニュー、小林優子、大久保義之、大河内忍、柴田志郎、高橋恒星、石堂伸晴

ゴルゴ13(2008年版)の西澤回にハマっていた自分には突然のご褒美だったスナイパー回。ダグがこの辺りから一番好きなキャラになった。

 

「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」

第8話『踊る!学園捜査線!』

脚本:吉田恵理香、絵コンテ:西澤 普、演出:平沼加名、作画監督:山本美佳、小林利充、鎌田 均、中野圭哉

パンキッシュな見た目と比して穏やかな性格を垣間見せていたマックスの学園時代の体験と重なるような事件を縦軸に、彼女とタッグを組むユリとの絆を横軸として描いたエピソード。意外な人柄と、さらに過去の経緯が意外なところへと着地する二段重ねが巧い。個人の多様性を意識した爽やかさもポイント。

 

ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風

第4話『ギャング入門』

脚本:ヤスカワショウゴ、絵コンテ:木村泰大、演出:鈴木恭兵、作画監督:森藤希子、重本和佳子、アクション 作画監督:岩崎安利、総作画監督:田中春香

 デ・キリコのシュール絵画のような濃密な空間が、ジョルノのキャラクターの芯を視聴者に強く印象付ける。不調和だが目に美しい色彩設計、瞬間の不可逆性を物語る光のコントラストの高さ。

 

「風が強く吹いている」

第8話『危険人物』

脚本:喜安浩平、絵コンテ・演出:那由多十三、作画監督:名倉智史、鈴木明日香

日本の映像作品においては、ダイニングで向かい合う(擬似)家族の会話に格別な重みが置かれている気がするが、このエピソードでのハイジとカケルのダイアローグはおそらく前半の緊張の最高潮。様々なプラスマイナスの要素を重ねてここに至っている点に、青春の豊かさと人生のままならなさの両方を感じ取った。

 

<付記:OP5選&ED5選>

~OP編~

ポプテピピック

東京喰種:re(第一期)」

イナズマイレブン  アレスの天秤

「悪偶 ー天才人形ー」

バジリスク 桜花忍法帖

 

~ED編~

重神機パンドーラ(第1クール)」

ひそねとまそたん

「悪偶 ー天才人形ー」

PERSONA5 the Animation(第2クール))

刃牙(第2クール)」

 

2018年12月に観た映画まとめ

機動戦士ガンダムNT ('18 監督:吉沢俊一)

個人的トラウマと世界情勢が等価になった内面世界をガンダムで描いた、その度胸を自分は買う。ミシェルとゾルタンは同根の存在なのだ。祭りの後始末が必ず来ると分かっていても過去を取り戻したい欲求を抑えきれない。これは正しく21世紀の心情を反映した物語、すなわちナラティブな切り口の新しいガンダムシリーズである。ギミックを何段にも重ねたメカアクションも満腹感が得られて良い。

愛と法 ('17 日・英・仏/監督:戸田ひかる)

同性愛カップルである二人の男性弁護士が営む事務所を写したドキュメンタリー。大阪弁がリズミカルに響く。アーティスト・ろくでなし子氏(お父上の人間性の高さが印象的)のわいせつ物流布罪裁判、教師君が代不起立裁判、無戸籍者問題など、不可視の領域と境界を問い続ける姿はパワフル。だがその反動の面がもっと映ってもいい気もする。

ア・ゴースト・ストーリー ('17 カナダ/監督:デヴィッド・ロウリー)

今年は(このラストシーンの余韻のためにすべてがあるのだな)というポエティック至上映画が多かった印象があるけど、この“おばけもの”は最たるもの。自然光を印象的に写したあらゆるカットは美しいし、時間遡上の仕掛けは少し凝ってたが、そもそも主演ふたりはそれぞれもっとふさわしいタイプがいたと思うんだよなあ。

ヘレディタリー 継承 ('18 アメリカ/監督:アリ・アスター)

ゴシックホラーの手法でモダンホラーの物語を描くことで、現代社会が内包する複合的な恐怖を示す。その気持ち悪さと悲しさとはずっと余韻を残す。主人公とその家族もまた平凡な愛しあう人物として登場していたから。死体の見せ方はショッキングであると同時に現実的なオブジェクトとして置かれ、日々の暮らしの皮一枚下に暗黒の淵が潜んでいる暗示を照射してくる。ほんとうに、悲しく恐ろしかった。

斬、('18 /監督:塚本晋也)

幕末、農村に下った若い侍を主人公に武力を保持する意味を問う。つまり監督の前作「野火」の姉妹編といっても過言でない(全編に渡って草が風に叫び続けている)。監督本人が演じる老練な武士の淡々として効率的な殺人術、悟っているか投げているか分からない生きざまが鮮烈。

2018年12月に読んだ本まとめ

さらば、シェヘラザード

主人公はポルノ小説で糊口をしのぐ若い作家。新作へのすすまない筆に彼自身の家庭事情、煮え切らない過去の思い出がついつい載ってしまう。そしてそれは現実生活において無視できない問題へと発展してしまう。面白い切り口であるものの、手法に目を見張るというまでは届かず、装丁によっては単に古い翻訳物としか自分には受け取れなかったかもしれない。

 

木に登る王:三つの中篇小説

時代設定の違う三つの中篇による構成だが、その共通テーマは後半に入るまで明かされない。古典的にして現代にもまったく古びず通じるその問題は、人の精神と存在の不可思議に思いを馳せずにはいられない事柄である。その重層性が、それぞれのクライマックスの時が止まったような緊張感のある美しさを象っている。

 

最初の悪い男

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

 

四十代の妄想を生きる糧にするタイプの冴えない女が、軽率でいて人を惹きつけずには置かない二十歳の上司の娘を同居させる羽目になる。とうぜん生まれる衝突、そしてそこからリアルでいて奇妙なやり取りによる紆余曲折が発していく。予定調和がどこにもないのは、ミランダ・ジュライが作品上で一貫してパーソナリティの可笑しみと尊厳とを両立させてきた一つの精華だろう。何も思うように進まないが、気がつけば切望していたものが形を変えてそばに居る。それは多くの人が経験する事である。生きるためにちゃんと傷付きたい。そんな歌詞があった事なども思い出す。ほとんど匂いまで感じさせるような人物描写がつづくが、自分がなかでも忘れられないのはカウンセラーにして受付係でもある女性。彼女と主人公シェリルとの距離感が好きだ。技法面では、他者と初めて意識的に触れあうことで自分を客観視していくシェリルの様子がごく自然で素晴らしい。

 

インヴィジブル

インヴィジブル

インヴィジブル

 

 アメリカの大学生がフランスから来た職業不詳の男と知り合い、そこで抜き差しならないトラブルに巻き込まれる。第一部は大学生の一人称、第二部は大学生が記述するあえて二人称で綴られた回顧録、第三部は大学生の知人による聞き書きの三人称のスタイルを取ることで、序々に事実が霧の奥に紛れ込んでいく人間の不可思議さを印象付ける。ラストシーンの峡谷にノミを打つ音がこだまするパノラマが鮮烈なイメージをもたらすが、そういえば都市から始まる事がほとんどのオースター作品では、こういった自然の圧倒的な物量が迫る情景がよく描かれるなと気付いた。

 

伝道の書に捧げる薔薇

伝道の書に捧げる薔薇 (ハヤカワ文庫SF)

伝道の書に捧げる薔薇 (ハヤカワ文庫SF)

 

 ゼラズニイはこれまでそんなに読み込んでこなかったけれど、こうして短編集にいざ当たってみると、わりかし当たり外れの多いタイプなのではないかなと感じた。そんな中でやはりいいなと思うのは、遠い星で寂しさに身を震わせながら状況に向き合う男を主人公とした表題作のような作品。ドライさの中にふいに圧倒的な詩情がこぼれ出す。

2018年11月に読んだ本まとめ

グランド・ブルテーシュ奇譚

 

グランド・ブルテーシュ奇譚 (光文社古典新訳文庫)

グランド・ブルテーシュ奇譚 (光文社古典新訳文庫)

 

 表題作はなかなかホラーチックな展開を見せるが、伝え書きのスタイルによりあくまで典雅。乗り合い馬車の事故の顛末「ことづて」にはバルザックの年上女性好きがストレートに反映されておりニヤリとする。新訳によって近代性を超えた現代性を感じた短編集。

旅のスケッチ

 

旅のスケッチ: トーベ・ヤンソン初期短篇集 (単行本)

旅のスケッチ: トーベ・ヤンソン初期短篇集 (単行本)

 

 旅先でのアバンチュールの予感とその空振りをプロットとする「髭」など、戦前の一般誌に掲載された大人向けの都会を舞台とした短編で構成。独身女性の孤独を旅行者の目から見た「サン・ゼーノ・マッジョーレ、ひとつ星」の一人称を(意図的にかは確信がないが)用いた叙述ミステリが鮮やかだった。