2018年11月に観た映画まとめ

1987、ある戦いの真実 ('17 韓国/監督:チャナン・ジュナン)

独裁政権の最中、一人の大学生が勾留中に拷問を受け死亡する。その史実をもとにいかに人々が真実を明らかにするため闘ったかを複数の視点より描く。拘置所の看守とその若い姪、かれらを中心にした市井の人々の根を地中に広く張った勇気に心打たれざるを得ない。前世紀映画的なラストシーンも今の世界においては意味を新鮮に捉え直せるためにただただ圧巻。悪のイデオロギーがあるのではなく、悪の体制を疑わない事が悪への道なのだと、脱北の背景を持つ登場人物から伝わってくる。

 

 

2018秋期アニメの視聴状況

「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」(NETFLIX) タイバニと舞台を重ねさせた(完全に同一ではなくパラレルな関係かも)軽快な刑事バディもの。サンライズのオリジナル作品らしくSF要素も豊富。プロットも掛け合いも非常に練られたあたり、海外向けの意向が感じられる。
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風(NETFLIX) これまで以上にスタンド能力の適用ぶりに無理さを感じるきらいもあるけど、この全般センスの磐石さを視ない選択はやはり無いのだった。それに第六部のアニメ化にも期待してるしね。
東京喰種:re (第二期)」(NETFLIX) 第一期のネトフリ配信を視てみたら面白かったので。やや展開が駆け足なのと、一期ほどの準備期間の余裕が感じられない点が不安だが、やはり群像劇として面白い。
「イングレス」(NETFLIX) ゲーム原作。フル3DCG制作。よくも悪くもクールな距離感を画面から感じるが、今年らしさのようなインプレッションがあるので視聴継続。なおテレビ放送より大幅に先行した全話一挙配信。
「風が強く吹いている」(ニコニコ動画) 現時点、回を追うごとに面白さが積みあがっていく期待筆頭。男子大学生たちのリアルな体格が動くこの驚異の作画力。畑違いの抜擢といえる喜安浩平のシリーズ構成にも期待。原作未読だけど、彼らにぜひ箱根を走ってほしい。
イナズマイレブン オリオンの刻印」(ニコニコ動画) 愛らしげな中学生男子でエグげな黒幕ありのサッカー群像劇をやる日野マジック。まんまと前シリーズから視聴継続である。


継続は
刃牙(NETFLIX) 梢江ちゃんが最強(最愛)合戦に参入してきてますます目が離せない。勇次郎に互角に渡り合えそうなのは彼女だけ。

2018年10月に観た映画まとめ

きみの鳥はうたえる('18 監督/三宅 唱)
函館で夜毎に遊ぶ三人の男女。水面下で揺れ動くかれらの数ヶ月間をとらえた青春映画。地方都市のぽっかりとした朝の、むなしさとやさしさをたたえたラストシーンは不可解さを残しながらも深い余韻が残った。汗臭そうなシャツの本屋店長と小市民っぽさが憎みきれない先輩店員には主人公たち以上のドンマイを送りたくなる。

2018年10月に読んだ本まとめ

大正=歴史の踊り場とは何か


江戸時代からの脱皮、再構築であった明治を継いでの大正期には、現代に直接的に繋がる政治や文化のシステムの完成が見られた。さまざまな分野(なかでも“校歌”を取り上げる着眼点は面白い)での検証で照射される平成の日本の現状。


隣接界

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


プリーストのこれまでの作品のモチーフが散りばめられた長編SF小説量子論がうむポルターガイスト現象があらわになる瞬間の描写にはゾッとさせられて、やはりイギリスは怪談の本場だなと思うなど。「夢幻諸島から」の不可思議な地理への理解が少し進んだような気持ちになれたのは収穫だし、「限りなき夏」のラブストーリー性のよりすすんだ着陸点にエモーションを覚えた。登場人物が絡み合い収束していくくだりには、これまでのプリースト作品にはないストレートに近い感動がある。そういえば描写や文体もこれまでになく直截的。

ワイルドフラワーの見えない一年

ワイルドフラワーの見えない一年

ワイルドフラワーの見えない一年


詩に近いテンポの短編集。雑誌連載を元にしているため、前衛的な趣向のものも多い。表題作は雑草とよばれる花々を市井の平凡な女性たちに例えていて、駅ですれ違う顔のない顔たちの点描があざやかに像を結ぶ。ユーモラスな作品も多く気軽に読める。

イギリス文学を旅する60章 (エリア・スタディーズ)

イギリス文学を旅する60章 (エリア・スタディーズ)

イギリス文学を旅する60章 (エリア・スタディーズ)


古代を題材にしたアーサー王伝説の舞台から、現代でノーベル賞を受賞したカズオ・イシグロゆかりの地までをガイドブック調に紹介しながらイギリス文学史を学べる趣向。いざページを繰り始めるとなかなかの読みごたえであった。

2018年9月に観た映画まとめ

菊とギロチン('18/監督:瀬々敬久)

宣伝のなさから想像もできないほど、大作と名乗るに値するエピソードのボリュームと完成度の高さのある秀作だった。キャストが脇まで含めて抜群にいいし、その演技指導も有名俳優だからとか若手女優だからとかといった忖度がまったく感じられない。大正期のアナーキズム運動、寄る辺ない女たちを土俵に立たせる巡回興行、双方の欺瞞性と真剣さが絡まりあい、そして現在への明かりが一筋見えてくる。

手をなくした少女('16 フランス/監督:セバスチャン・ローデンバック)

とにかく主人公の少女の生身さの印象が強められたつくりで、ふるまいや動き、言動もだが音響効果も容赦なく耳に迫ってきてやや気おされてしまうが、しかしすべてはラストシーンの清々しさのためにあると理解する瞬間、納得が行ってしまう。夫である王子が単独行の果てに少女の心を知った上で行う呪いには心動かされる。

ラッキー('17 アメリカ/監督:ジョン・キャロル・リンチ)

ドキュメンタリータッチのフィクションということでいいと思うが、自分はちょっとその境界線の在り処に戸惑ってうまくノレなかった。もっと主演のハリー・ディーン・スタントン自身の気持ちの吐露がほしかったかな。

ゴースト・ストーリー 英国幽霊奇談('17 イギリス/監督:アンディ・ナイマン、 ジェレミー・ダイソン)

舞台演劇が元となった作品というだけあって、大道具を活用するかのようなシーンがあるが、不思議なことに違和感がなかった。シナリオの構築も心理学を駆使しつつ、リアルラインを自在に動かしながらも無理がないギリギリまでゴムひものように柔軟を利かしている。リアリストのテレビプロデューサーが遭遇する3つの幽霊談、それぞれがなかなかに恐怖をあおる趣向になっているが、脳の容量が大きくその作用が複雑化した人間には、もっと恐ろしいものがある。そしてそれは、実は怪談話の真髄そのものと裏側と繋がっているのではないかという怪異譚への考察としての側面もあり、これは拾いものな佳作だった。

寝ても覚めても('18/監督:濱口竜介)

偶然にも同じ顔を持ったふたりの男を、時間差で愛する事になった女とその周囲の人々の心模様を綴る。日本特有の湿気のこもった色彩、はっきりしない天候の多さ。しかし画面設計がうみだすのはカラリとした空気感であり、それは時の流れが運ぶ無常のしるしでもある。人は誰もが同じ場所に居続けられない。でも自分以外の誰かの幸福についてずっと考えることが在るとするなら、それこそが奇跡なのだ。

Netflixでの鑑賞)キングコング: 髑髏島の巨神 ('17 アメリカ/監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ)

あきらかに「地獄の黙示録」を意識したジャングル空爆シーンが、人間側の蹂躙者としての側面を強調しており印象的。キングコングと敵対関係にあるトカゲ型のモンスターの醜悪さと凶暴さも。スケール感の出し方がとにかくうまく、単純なドカチャカものになっていない品のある作品だった。

2018年9月に読んだ本まとめ

誰でもない

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)


韓国の現代社会の声なき声を拾った短編集。声高に悲劇性を訴えるわけでなく、ただ丁寧に物陰に佇んでいたり街路の端を歩いていたりする人々の心をエピソードに載せて綴る。犯罪の兆しを未成年の少女の危うさに感じつつも何もアクションしなかった店員、時間に押し流されそうになりつつも何度もペンを取り直す独りぐらしの老女、家庭環境の違う恋人とその家族とともに行ったピクニックでのちぐはぐさに戸惑う若者。

第50回2018秋調査

アニメ調査室(仮)さんにて開催中。以下、回答記事です

2018秋調査(2018/7-9月期、終了アニメ、67作品) 第50回

01,ISLAND,x
02,千銃士,x
03,音楽少女,x
04,はねバド!,x
05,ぐらんぶる,x

06,殺戮の天使,x
07,闇芝居 六期,x
08,悪偶 天才人形,B
09,かくりよの宿飯,x
10,メジャーセカンド,x

11,はるかなレシーブ,x
12,ハイスコアガール,x
13,重神機パンドーラ,B
14,オーバーロードIII,x
15,若おかみは小学生!,x

16,俺たちゃ妖怪人間G,x
17,銀魂 銀ノ魂篇 後半戦,x
18,邪神ちゃんドロップキック,x
19,百錬の覇王と聖約の戦乙女,x
20,夢王国と眠れる100人の王子様,x

21,異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術,x
22,ロードオブ ヴァーミリオン 紅蓮の王,x
23,アイドルマスターシンデレラガールズ劇場 3rd SEASON,x
24,マーベル ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー,x
25,こねこのチー ポンポンらー大旅行,x

26,少女☆歌劇レヴュースタァライト,x
27,僕のヒーローアカデミア 第3期,x
28,イナズマイレブンアレスの天秤,B
29,ヤマノススメ サードシーズン,x
30,ガンダムビルドダイバーズ,x

31,信長の忍び 姉川・石山篇,x
32,京都寺町三条のホームズ,x
33,アンゴルモア元寇合戦記,C
34,ちおちゃんの通学路,x
35,ゆらぎ荘の幽奈さん,x

36,深夜! 天才バカボン,x
37,働くお兄さん! の2!,x
38,陰陽師 平安物語,x
39,あそびあそばせ,x
40,七星のスバル,x

41,はたらく細胞,x
42,カニつめくん,x
43,カプチーニャン,x
44,プラネット・ウィズ,C
45,あっくんとカノジョ,x

46,うちのウッチョパス,x
47,つくもがみ貸します,x
48,テレビ野郎 ナナーナ,x
49,ハッピーシュガーライフ,x
50,すのはら荘の管理人さん,x

51,PERSONA5 the Animation,C
52,Back Street Girls ゴクドルズ,x
53,One Room セカンドシーズン,x
54,シュタインズ・ゲート ゼロ,x
55,Free! Dive to the Future,x

56,Phantom in the Twilight,x
57,天狼 Sirius the Jaeger,B
58,ルパン三世 PART5,B
59,(特番 9話) じょしおちっ!,x
60,(全24話) BEATLESS Final Stage,x

61,(特番 3話) Fate/EXTRA Last Encore イルステリアス天動説,x
62,(ネット配信) 異世界居酒屋 古都アイテーリアの居酒屋のぶ,x
63,(7月終了) フルメタル・パニック! Invisible Victory,x
64,(6月終了) 戦隊ヒーロー スキヤキフォース (2期),x
65,(6月終了) せいぜいがんばれ! 魔法少女くるみ,x

66,(地上波初放送) 焼肉店センゴク,Z
67,(地上波放送分) グラゼニ (1期),Z


「悪偶 天才人形」B:中国発信アニメの新天地を切り拓いた、かもしれない。ハッタリ優先の展開が日本人の目に斬新。
重神機パンドーラ」B:作画温存の意味もあってか観念的すぎるエピソードも数回あったが、80年代ロボットアニメの情念ドラマをもちこんで、理系マイペース主人公を前面に立てた企画性は大方成功していた。
イナズマイレブンアレスの天秤」B:女子選手が混じっていたり、経済中心主義が世界観に入っていたりと以前のシリーズから少しずつヴァージョンアップされており、ドラマ強化が巧く出ていた。主人公三人制も飽きずに視られたポイント。
「アンゴルモア元寇合戦記」C:史実に沿った展開とはいえ、最終話があまりにも悲惨。漫画とアニメの見せ方の違いについて改めて考えさせられた。
「プラネット・ウィズ」C:素直でストレートな熱さが自分の好みではないこともあるが、現代アニメとしてはツイストが企画段階で足りない気がした。これも漫画とアニメの演出面の違いについての教材になり得る。
PERSONA5 the Animation」C:こちらはゲーム原作。人気が高いだけにアレンジを自由に加えられない印象が、コンテの柔軟さが足りない面に出たようにも感じてややシリーズとして平板。特別編に繋げた最終話の後味はまあ許容範囲。作画は難しいキャラクターデザインながら健闘と思う。
「天狼 Sirius the Jaeger」B:1クールという短さを加味すれば、最近ホットな大正期という時代設定とキャラメイクとの兼ね合いは相当にベター。ただクライマックスに派手さが薄いのは、叙情性の強いスタジオカラーの裏返しでもある。作画の堅実さは昨今のアニメ状況を考えれば異例のレベル。
ルパン三世 PART5」B:シリーズをこれから10年、現役のものとして活かすという意気込みが強く感じられる構成と出来だったが、ルパン一味の殺人行為を(不可抗力ながら)直接的に描く意義は自分にはよく分からなかった。ルパンと不二子の微妙な関係性、ローティーンヒロインのアミの現代的なキャラ描写は良かった。なお豪華ゲスト脚本による単発のエピソードは自分はぜんぶイマイチでした。