映画

2023年12月に観た映画

窓ぎわのトットちゃん('23 監督/八鍬新之介) 子供が二人、かたわれを手助けしながら木に登る。その木肌の荒くてしかしどこか親し気な手触り、陽ざしのやわらかさ。あるいは初めて大勢とプールで水遊びする時の、くぐもった音の響き方。世界へのどうしよう…

2023年10月に観た映画

大いなる自由 ('21 オーストリア、ドイツ/監督:セバスティアン・マイゼ) ざらざらとした光線の撮り方が実にドイツ風土のイメージに合致。まるでブルーフィルムが上映されているかのような冒頭の審理シーンが、性愛というプライベートの最たるものを成人同…

2023年8月に観た映画

バービー ('23 アメリカ/監督:グレタ・ガーウィグ) 序盤のバービーが朝の支度を終えて家を出るまでが自分の中で最高潮だった。遊ぶ子供の手によってふわりと下へと降ろされるようにカーポートへと舞いおりる。あるいはその後からはプラスティカルで平面的…

2023年11月に観た映画

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン ('23 アメリカ/監督:マーティン・スコセッシ) 人種や性別に拠る差別をまるで当然の前提であり、神から与えられた権利であるかのように振る舞う白人男性のコミュニティの残酷さ、その対象にされた者、取り込まれ抱き込…

2023年7月に観た映画

君たちはどう生きるか ('23 監督:宮﨑 駿) 後半の展開にとりとめがなさすぎるのは「ハウルの動く城」以後の宮﨑監督の悪癖だと思っているので、今回も自分は積極的に評価できないし、そもそも作品からのメッセージが観たあとに何も残らなかった。とはいえイ…

2023年6月に観た映画

聖地には蜘蛛が巣を張る ('22 デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス/監督: アリ・アッバシ) 監督の前作「ボーダー 二つの世界」は強い質感を放ちながらも複数の社会要素のストーリー上での咀嚼が荒い気がしていたが、本作ではそのウィークポイント…

2023年4月に観た映画

ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り ('23 アメリカ/監督:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー) ディズニーランドやUSJのアトラクションを3つほど入った後のような満足感が得られる。こんなまったき充実感を得られる…

2023年3月に観た映画

ベネデッタ ('21 ベルギー 監督:ポール・バーホーベン) 異端審問というより現代法廷劇に近いテンポの二転三転する展開にハラハラさせられ、そしてすべてを押し流すような怒涛の混乱バイオレンス=カタルシス。聖女伝説のように始まった物語は、西部劇のハ…

2023年2月に観た映画

かがみの孤城 ('23 監督:原 恵一) 「カラフル」以前のIP作品で発揮されていたドラマカタルシスのための演出と、以降の現実と劇中人物の情感とがリニアに繋がるための実写的な間接表現とのバランスが見事で、またテーマ性からくるシビアさと画面の総合印象が…

2023年1月に観た映画

ナイブズアウト:グラス・オニオン ('22 アメリカ/監督:ライアン・ジョンソン)配信オンリーなのがもったいないほどゴージャスな画面づくり、またシリーズ前作が未見でも単品として楽しめるなど、Netflix会心の一作。無人島の豪邸に集められた旧友同士のセレ…

2022年12月に観た映画

ある男 ('22 監督:石川 慶) 石川監督はデビュー作「愚行録」以降、少しずつ作劇や演出にウエットさを加えていっており、たとえば本作では弁護士がファイルを顧客の前でバンと叩きつけるカット、ジムのオーナーが煮え切らない弟子の態度に激昂するシーンなどは…

2022年8月に観た映画

神々の山嶺 ('21 フランス/監督:パトリック・アンベール) 原作の発表時点でおそらくすでに、戦後映画における男のロマン領域は過去のものという認識が為されていたように思う。谷口ジローの描くキャラクターの乾いた写実性、背景のスクリーントーンを多様…

2022年7月に観た映画

リコリス・ピザ ('21 アメリカ/監督:ポール・トーマス・アンダーソン) 美形でもなく不細工でもない歳の差カップル。少年の方はふわふわしたステージ志向の片親育ち、女の方は教義を守ることに口うるさい信仰家庭で親姉妹と同居。このトッピングは苦いとい…

2022年6月に観た映画

オフィサー・アンド・スパイ ('19 フランス/監督:ロマン・ポランスキー) 全編に渡って演出と撮影に抑制が効いており没入感がすごい。歴史に名高い「ドレフュス事件」の内容についてはほとんど知識がなかったが、最低限の説明で理解ができるように作られて…

2022年5月に観た映画

犬王 ('21/監督:湯浅政明) 湯浅作品にありがちだった、ドラマの求心力の薄さが本作にはまったく無くてその時点でこれはただ事ではないのだと悟った。自分の運命の根本を探す主人公ふたりは、将来という名の行く先を求めようとしない。興奮の絶頂へ大衆に同…

2022年4月に観た映画

ナイトメア・アリー ('21 アメリカ/監督:ギレルモ・デル・トロ) どの街にもある『悪夢小路(ナイトメア・アリー)』。そこでは人生という迷路で袋小路に詰まった者たちが行き倒れている。悪意、失望、孤独、格差、搾取。あらゆる悲惨がカードのように目の前…

2022年3月に観た映画

ライダーズ・オブ・ジャスティス ('20 スウェーデン、デンマーク、フィンランド/監督:アナス・トマス・イェンセン) テック陰謀論、家族間虐待、社会的弱者、有害な男性性、ネオリベ接近ギャング。様々な現代の問題を詰め込んで、よくこの着陸点に辿り着い…

2022年2月に観た映画

ユンヒへ ('19 韓国/監督:イム・デヒョン) 日本映画「Loveletter」に触発されての企画ということで、雪の函館のなんてことない住宅地の景色がとても印象的である。ただ、ドラマの骨格がもうひとつ弱く全体としてボンヤリとした感触。それが、娘と男友人パ…

2022年1月に観た映画

「偶然と想像」(’21 /監督:濱口竜介) オムニバス3つとも、予測の付かないドラマと実在感のある演出とで一瞬も退屈させられる隙がない。想像の先にまた偶然が生まれ、想像を超えて偶然はめぐり来る。世界への皮肉な視点さえ自ら包括するかのような豊かで…

2021年12月に観た映画まとめ

ラストナイト・イン・ソーホー ('21 イギリス/監督:エドガー・ライト) ネオンの夜に閃く未知への期待とやがての悪夢。若さに待ち受けるのは常に罠なのか。時代を超えてつながるものは果たしてそこに在るのか? B級ホラーのチープさとストイックに絞られた…

2021年映画ベストテン

いつもながら個人的な興味マッチング6割、完成度への賞賛4割ぐらいで決めてます。 クローブヒッチ・キラー(’18 アメリカ/監督:ダンカン・スキルズ) 犯人の歪さとアメリカ家庭を抽象化した居室空間の静寂さとのギャップが冴える。 最後の決闘裁判 ('21 イ…

2021年11月に観た映画まとめ

蒼穹のファフナー THE BEYOND最終章 ('21 監督:能戸 隆) 今回は特に三話のなかでの内容振り分けが明確で、第10話で最終決戦の前の感情のやりとり、第11話で思い切りの戦闘描写(大スクリーンに見合った圧巻さで実際の尺以上に感じた)、第12話でエピローグと…

2021年10月に観た映画まとめ

Summer of 85 ('20 フランス/監督:フランソワ・オゾン) 未成年審判の行方と危ういひと夏の同性愛の結末とを追わせる並行エピソード構成で、思いのほか娯楽性が高かった。突然の事故死によりひとり遺された形の少年が亡き恋人との激しく儚い日々を小説仕立…

2021年9月に観た映画まとめ

ドライブ・マイ・カー('21/監督:濱口竜介) 選び取った関係を演じるという事、虚実を分けずに言葉を発する事、相手の《声》を体の中で反響させるために《耳》を傾けるという事。しかしどれだけ耳を澄ませてみても、結局は胸の中の《反響》しか聞き取れな…

2021年8月に観た映画まとめ

クローブヒッチ・キラー(’18 アメリカ/監督:ダンカン・スキルズ) もしも自分の父が未解決連続殺人の犯人だという証拠に気づいてしまったのなら…という悪夢そのものなシチュエーションを平熱な演出で日常のつづきのように描き出す。それによって、同じよ…

2021年7月に観た映画まとめ

グンダーマン 優しき裏切り者の歌 ('18 ドイツ/監督:アンドレアス・ドレーゼン) 全くの余談だが、友人から想い人を寝取る展開は「バック・ビート」を、愛する人に抱擁されて苦悩と向き合う覚悟を決める主人公の感情表現に「ミュンヘン」を、そして社会生活…

2021年5月に観た映画まとめ

どん底作家の人生に幸あれ!('19 イギリス、アメリカ/監督:アーマンド・イアヌッチ) 文豪ディケンズの自伝的要素の強い長編「デイヴィッド・コパーフィールド」を多人種構成のキャスティングで脚色。といって、インド系俳優が他の家庭成員が白人である主人…

2021年6月に観た映画まとめ

閃光のハサウェイ ('21 監督:村瀬修功) ロボットアニメでありながら、徹底して照明効果やカメラ構図を実写映画寄りにすることで、従来のガンダムシリーズのファンに新味を提供するとともに、そのシャープなビジュアルイメージによって新規の客もつかんだ。…

2021年4月に観た映画まとめ

私は確信する ('18 フランス、ベルギー/監督:アントワーヌ・ランボー) 妻殺害への冤罪が疑われる男を、その娘と親しいがために救おうとする調理師のシングル・マザー。やり手の弁護士を探して助手の役目まで負う彼女の行動力はときに常軌を逸しているので…

2021年3月に観た映画まとめ

シン・エヴァンゲリオン劇場版:ll ('21/監督:庵野秀明、摩砂雪、鶴巻和哉、前田真宏、中山勝一) ラストシーンが寂しくもあり爽やかでもあり感無量。色々と衝撃を振りまいてきた本シリーズがこうしてジュブナイルとして大団円を迎えた事に、様々な困難を越…