2023年8月に観た映画

バービー ('23 アメリカ/監督:グレタ・ガーウィグ)
序盤のバービーが朝の支度を終えて家を出るまでが自分の中で最高潮だった。遊ぶ子供の手によってふわりと下へと降ろされるようにカーポートへと舞いおりる。あるいはその後からはプラスティカルで平面的な空間から抜け出た方がメリハリが効いていてよかった気もする。マテル社で働くシングルマザーと娘の脚本上の働きも中途半端に感じられたし、やや退屈な二時間弱だった。やはりそもそもが、バービーというIPに興味を持ってないのに観に行ったのが間違いだったのかも。

カード・カウンター ('21 アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン/監督:ポール・シュレイダー)
人は必ず間違えると、ギャンブラーの主人公は旅の道連れになった青年に話す。だがそう語った本人が、自分が結果として間違った判断をした事にすぐに気付くという展開の意外性と苦い深み。そしてさらに間違いを深める行動にはしるやりきれなさ。人生のカードは決して読みきれないと示すために、あえて逆接として80年代の華やかなカジノ映画をパスティーシュした撮影が興趣を添え、その対照であるアメリカ軍による中東の捕虜収容所のシーンが断片的ながらずっしりと印象を残す。そしてラストシーンの意味。生きてる限り、何度でもやり直さないといけない。それは希望というより義務なのだと思う。

古の王子と3つの花 ('22 フランス・ベルギー/監督:ミッシェル・オスロ)
ビビッドなのに調和がとれてシックでさえある色彩感覚で語られる、真・善・美の3つの物語。吹き替え版で観たが、舞台劇の発声に近い声優の演技と音響効果の素晴らしさが際立っている。影絵の趣向で描かれる二つ目のエピソードが特に印象に残った。放逐された王子が勇気や優しさ、機知で幸福をつかむテーマの通底に、心励まされる映画。