2022年1月に観た映画

「偶然と想像」(’21 /監督:濱口竜介

オムニバス3つとも、予測の付かないドラマと実在感のある演出とで一瞬も退屈させられる隙がない。想像の先にまた偶然が生まれ、想像を超えて偶然はめぐり来る。世界への皮肉な視点さえ自ら包括するかのような豊かで伸びやか、そして危険なまでに自由な映画。

<旧作>

「ブレンダンとケルズの秘密」(’09 フランス、ベルギー、アイルランド/監督:トム・ムーア)

バイキングの襲来を常に恐れなければならなかった中世のアイルランド。その修道院で暮らす少年と森の妖精との交流を軸に、書物への賛歌を謳い上げるアニメーション。平面的な線と、それこそ稀覯本のような鮮やかさとシックさを兼ね備えた色彩で、森の自然と書物の中の世界、そして修道院長の指揮で造られる砦の中の陰鬱な空間。それぞれがふしぎと質感を持ってこちらに迫ってくる。妖精のような魔女のような存在のアシュリンは銀色のなびく髪の動きと歌い声とで存在感があるが、ほんの少しでも主人公の少年が恋愛の対象として彼女に惹かれる瞬間が欲しかった気もした。『ケルズの書』を書く修道士の猫がアシュリンの手引きで、いっときだけ精霊化するシーンが最もワクワクさせられた。アシュリンが森の王の影響で一気に老け込んでみえる演出の意図や、森の力が凝縮されたレンズを純真な者が奪い取るテーマの意味については、踏み込みが足りずにもったいなく感じた。