2019年3月に読んだ本まとめ

薄情 

薄情

薄情

 

 地方都市に暮らす、浮きも沈みもしないごくごく平均的な若い男を主人公に、彼の内面に起こるさざ波を描写する。殺人事件といった決定的な出来事はないものの、外から見るには分かりづらい地味なイヴェントの数々が、無数の市井の人々が持つ精神に思いを至らせる。これは地方に住む自分にとっては記憶に残る作品になりそう。

 

恥知らずのパープルヘイズ

恥知らずのパープルヘイズ ―ジョジョの奇妙な冒険より―

恥知らずのパープルヘイズ ―ジョジョの奇妙な冒険より―

 

 大河シリーズと化した漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第五部のスピンオフ作。読み口はライトノベルのそれで、主役のフーゴの鬱屈に比して案外にさらりとした雰囲気で章は進む。敵グループのキャラクターと能力のバラエティの幅広さは原作に劣るものでなく、また最終章の荘厳なビジュアルの喚起ぶりにはオマージュとしての質の高さがある。

 

オブジェクタム

オブジェクタム

オブジェクタム

 

 ファンタジーが少し入り込んでいるのかもしれないが、子どもが主人公であることで、その精神構造それ自体が幻想と現実との境界が淡いために判別がむずかしい。そこにこの作品の味わいが。小学生の放課後の時間、その体感の長さが印象的。

 

82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

 

 制度に比して社会の実態が男女平等に追いついてない中を懸命に生きてきた主婦のキム・ジヨンの振る舞いがある時とつぜんおかしくなる。かつて周りにいて努力が報われなかった女性たちが憑依したかのように発語するジヨンは夫に連れられて精神科にかかるが、その主治医のカルテを擬して綴られているので非常にリーダビリティが高い小説になっている。旧態依然とした家族制度に縛られながらも自らの才覚で夫の凡庸さをカバーしてきたジヨンの母が、時に激高して娘たちを鼓舞する数シーンが感動的かつ痛切。訳者あとがきで“それでも日本に住む自分にはジヨンたち韓国女性がまぶしくて仕方ない”と綴っているが同意である。