2019年6月に観た映画まとめ

ホフマニアダ ホフマンの物語 ('18 ロシア/監督:スタニフラフ・ソコロフ)

ストーリー構成に取りとめがなく、筋を追うのにやや苦労したが、すべては作家として名を成す前の青年ホフマンの心情風景だと思えば、むしろその思い切った企画の高尚さに感心する。雰囲気は幻想的だが人形の造型はどこか歪つでそこが印象に残った。なおひときわ哀切だったホフマンの幼年期の母から教会へ預け渡されるエピソードは、ウィキペディアを読む限りでは確認されなかった。どうもこの映画ほどには実際のホフマンの生涯は不遇でなかったようなのだが、もっと資料をあたらないことにはよく分からない。

サンセット ('18 ハンガリー、フランス/監督:ネメシュ・ラースロー)

帝政オーストリア時代のハンガリーを舞台に、高級宝石店をめぐる過去の謎を追う若い女性の不安な視点でカメラが綴られる。土ぼこり舞う大通りの隠せない未開感、そらぞらしい公園での昼の宴、闇が荒々しい焚き火に部分のみ照らされる貧民街の陰影。そして静まり返った屋内での裸足。あんな禍々しい裸足の意味合いを示した情景はこれまで見たことがない。すべては言葉の裏側にあり、それらは最後に大雨が打ち付ける塹壕のなかの一対のまなざしに結晶する。これこそが映画だ。

たちあがる女 ('18 アイスランド、フランス、ウクライナ/監督:ベネディクト・エルリンクソン)

ボランティアで聖歌隊を指揮する平凡な中年女。しかし彼女は単独で環境破壊企業にプロテストする実力行使の運動家だった。巨大な送電塔に立ち向かい、弓を放ち太い電線を引き切る姿は、神話の英雄のようでありドン・キホーテのようでもある。おそらくは企業を倒すことはできず、計画は変えられず、人々の大勢の流れもこれまで通り。しかし彼女は最後に完璧な理解者と、未来への希望を託す存在とを得た。渡った海外で洪水した町へとバスから降り立つその姿に、闘いは終わることはないと知らされる。手法面では、テロリストとも捉えられそうな主人公の扱いをフォローするための想像空間上のバックバンドの存在が効いていた。迫る危機の前の物悲しい表情と演奏が忘れられない。

ねじれた家 ('17 イギリス/監督:ジル・バケ=ブレネール)

アガサ・クリスティが自ら最高傑作としていた推理小説が原作。動機に多重性がある点が見ごたえあった。かつて恋愛関係にあった男女の微妙な機微もまた。富裕な一族の邸宅の造型とそれを自然に映す撮影が繊細。ただラストシーンはクラシック映画の荒さをあえて踏襲している観があって画竜点睛を欠いていたかも。