メアリーの総て ('17 イギリス・ルクセンブルク・アメリカ/監督:ハイファ・アル=マンスール)
夫が、ノリと感じのいいクズ男という感じでもはやコメディすれすれ(メアリーの妹と同じ屋根の下で不貞行為にふけった後『ふー、やっと落ち着いたよ』と戻ってくるシーンは傑作)。しかしおなじ男であるメアリーの父の誠実な人間性で、戯作バランスが取れているのであった。メアリーが、自分より器量も才能も劣るが調子のいい性格の妹に対して寛容すぎるのではというきらいもあるが、二人の絆を印象付けるクライマックスシーンはやはり胸を打たれる。そして父のアドバイスを忘れずにいた事で生まれるエポック作「フランケンシュタインの怪物」。彼女にとって怪物は自らを投影する対象だったのだという解釈は新鮮に感じられた。
イット・カムズ・アット・ナイト ('17 アメリカ/監督:トレイ・エドワード・シュルツ)
ワンアイデア系でインディペンデント色がストレート。自分はA24系のこのスケールの作品はあまり合わないかもしれない。寓話として解釈の少々の不透明さが残されている按配は良かった。
生きてるだけで、愛 ('18/監督:関根光才)
主演の趣里は、不器用で誤解されがちな役をするにはあまりに現代でウケが良すぎるルックス、キャラなのでは…というやっかみの入った違和感をずっと持ちながら観ていた。というか自分はもはやこういう青みのある映画を無心で楽しむには歳を取りすぎたのかもと痛烈に感じた。とはいえ、上手くなじめるかもと思ったバイト先でやっぱりのやらかしぶりは非常にリアルに痛いものだった。
(配信で視た作品)
新感染 ファイナル・エクスプレス ('16 韓国/監督:ヨン・サンホ)
トレインサスペンスとゾンビホラーの合体。通常のアクション映画の二本立てぐらいのプロット盛り盛りぶり。それが大味になってない構成力の高さ。これは傑作と呼ばざるを得ない。最近の韓国映画は、主役級から外れる人々の一種不可解な心の動きを見せる展開が巧いが、この映画でも終盤に入る前にそれが訪れて、物語に深みを増している。
サスペリア ('77 イタリア/監督:ダリオ・アルジェント)
70年代のモダンインテリアは子どもの頃に馴染みのあるもので、懐かしくも新鮮さもあった。カーマインレッドをテーマカラーとして、当時としてはショッキングな流血描写が封切り時の売りだったようだが、それも現代作品を見慣れた目には牧歌的にすら映る。ラストのヒロインの笑顔とか、あの後もどってきた他の生徒たちの心持ちを想像すると可笑しみがある。それでも、日常の陰の面への警戒心をあおられる演出は秀逸な事はわかった。
パディントン ('14 イギリス・フランス/監督:ポール・キング)
ジャングルの奥地で人知れず暮らしていた二足歩行で人語を解するクマが、あるきっかけでイギリスの街へと出てくる。そこで出会った個性的な一家に助けられて、一族のかつての知人を探すというプロットの中にふんだんにアイロニーの効いたコメディが入ってくる。パディントンの造型も可愛い以上にユーモラス。イギリスカラーが出ていて楽しく視た。