ことし観た女性映画5選

今年は女性登場人物をよりリアルに、これまでの古い女性像から自由に描いている作品が多かったというのが真っ先に出る感想です。
それを念頭に一年を振り返ってみました。記述は観た順です。
なお地方在住のため、封切が昨年のものも含みます。
「恋人たち」('15/監督:橋口亮輔) 例えのはなしだが、通常の映画に登場する"平均的な女性像"がいわゆる『シンデレラ体重』と呼ばれるものだとすれば、この作品の主役の一人である郊外の町のパートタイマー主婦は『厚生省データにおける平均体重』からくる掛け値なしに現実的な中年女性の典型例。その設定、キャスティングだけでも画期的なのだが、古めの少女漫画の模写のような落書きをそのへんにある紙に描きちらすことが趣味の彼女がたどる、不恰好で独りよがりながらも純粋な恋愛の姿の赤裸々さはちょっと忘れがたいレベルにリアル。
「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」('13/アメリカ 監督:ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル) 映像作家志望の学生がガレージセールで入手した写真群の作者である女性写真家の生涯を追うというドキュメンタリー・タッチ。乾いたカット使いが、戦後すぐの時代からはみだす個性の強さゆえの孤独に苦しみつつも、シャッターを切ることをやめなかった一人の女性の姿をあぶりだしていく。マイヤーの不器用さが他人事とは思えず、関係者の証言の細部ともども個人的に心に突き刺さってくる場面が多かった。
「キャロル」('15 アメリカ・イギリス/監督:トッド・ヘインズ) こちらはスタイルアップされた女性キャラクターふたりを主役に据えて、その背景となるうす曇の50年代アメリカの様子をひたすらにリアルに描くことで、どちらともを効果的に際立たせる手法がとにかく徹底していて圧倒された。こと美学の強度という点において、ここ数年において最高レベルの作品。キャロルの美しさと強さは、ふしぎと反感や気後れをこちらに与えない。それは主役の片方であるテレーズ同様に、彼女への距離感が最後まである一定に保たれているためだろう。
リップヴァンウィンクルの花嫁」('16/監督:岩井俊二) 合理的かつ一般的な幸福への追求の道を愚直に選んでいた無防備で無心なヒロインが、混沌の現実を直視できるようになるまでを描く。その道筋がはたして "正解"とされて描かれていたのかどうかは、実は今でも自分には分からない。ただ一つはっきりと感じたメッセージは、このクソのような世界でそれでもなんとか深呼吸をしつつ私達は生きていくしかないということ。今の世の中で必要なのはそれだけだと思う。
この世界の片隅に」('16/監督:片渕須直) さまざまな女性の生き方が淡々と描かれるが、自分がもっとも感銘をうけたキャラクターはヒロインが嫁に行った先の隣組の主婦。のほほんといつもと変わらぬ顔で広島で被爆し故郷までたどり着いたが行き倒れのようになってしまった息子について語る。戦争中でも人は固有の個性でもって反応する。そんなことが老若男女かかわりなく表現される、日本ではめずらしくあたらしいタイプの作品だと端的に分かるシーン。