2018年7月に観た映画まとめ

タクシー運転手 約束は海を越えて('17 韓国 /監督:チャン・フン)
光州事件での実話を元にした人間ドラマ。軍事政権の横暴描写は現実味がありすぎるほどに迫力があり、特に病院での一つの山場のシーンは痛切すぎてつらいほど。ドイツ人記者の外国人としての距離感もご都合主義ではないリアルさがあって良かった。主演のソン・ガンホの自然な演技によって娯楽性と社会性とのバランスが見事に取れている。ただ、車を使ったクライマックスの展開は自分はそんなに好みではないかもしれない。(とはいえ映画を終わらせるのには必要だったと思う)そういえばそのシーンの直前でのとある若い軍人の描写が非常に印象的だった。ああいう含みを持たせることができるのが現在の韓国映画の底力なのだろう。
レディ・バード('17 アメリカ /監督:グレタ・ガーウィグ)
自意識の強さと客観的な立ち位置とのバランスが悪くなりがちな10代の頃の監督自身をモデルとして、国境を超えた等身大の高校生の姿を描く。恋人、友人とのすれ違いは実際よくあるよなあ(特にルックスは抜群なのに陰謀論を信じ込んでいるボーイフレンドとか)という可笑しみ、心配して干渉してくる母親への愛情と苛立ち、すべてをあるがままに受け入れる準備ができたラストシーンの主人公の姿に、なぜかほんの少しの哀愁を感じたのは思秋期真っ只中のこちらの感傷だろうか。
ファントム・スレッド('17 アメリカ /監督:ポール・トーマス・アンダーソン)
美にたずさわる創作家の傲慢をこうまで平坦に描いている作品もめずらしいのではないか。上客の自堕落な女性からドレスを剥ぎ取るシーンは圧巻。結局は愛の暴力がさらに覆いかぶさるわけだが、違う面では新しい若さが古い老いに取って変わる諸行無常の物語でもあった。50年代英国を画面上につくりあげたシックさが強く印象に残る。
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法('17 アメリカ /監督:ショーン・ベイカー)
年齢が一桁の頃の日曜の昼下がり、微妙に古い海外ドラマを家族で視ているポカンとした時間が苦手だった。そこに自分のこれからの人生に横たわる閉塞感が象徴されていたからだ。この映画はそんな気分をまざまざと思い出させてくれた。同時に、確かに自分自身の幼い心が生み出す弾んだ瞬間がしばしば明滅していた事も。ムーニーの心には、フロリダ・ディズニーランドの実際のそらぞらしい空気とともに、親友の手の暖かさがずっと残るのだろう。
ラブレス('17 ロシア・フランス・ドイツ・ベルギー/監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ)
ロシアの都会を舞台に、現代人のミーイズムに満ちた愛の不在を児童不明事件にのせて描き出す。少年の泣き声を抑えた悲痛な顔と、豪華な部屋の寒々しい雰囲気とがずっとリフレインする。(あと伝え聞くかの国の強烈な老婦人像・・・)
マルクス・エンゲルス('17 フランス・ドイツ・ベルギー/監督:ラウル・ペック)
マルクスの強引スレスレのカリスマ、エンゲルスの育ちのよい純粋さが生み出す直進力が焼き付けられるが、逆にいえばそこ止まりな出来であるように感じる。左翼史における「共産党宣言」の重要さがもう少し伝わってくればなと思ってしまう。