2019年7月に読んだ本まとめ

恋愛制度、束縛の2500年史  -古代ギリシャ・ローマから現代日本まで-

 恋愛は社会構造と無縁ではない一つのシステムである…という観点から欧米と日本との差異を解説する手際が鮮やかかつ簡潔(かつ適度にユーモラス)でかなり腑に落ちるところがあった。ギリシャ神話から聖書にいたるまで、絶対的な天上の観念であった信頼・契約を背景に持つ個人間の友愛があらゆる関係に影響している欧米の“恋愛”を外郭だけ輸入したままで来ている日本の実情は、率直に言って自分には違和感がずっとある。

 

千霊一霊物語

千霊一霊物語 (光文社古典新訳文庫)

千霊一霊物語 (光文社古典新訳文庫)

 

 フランス革命から数十年後のとある郊外の村で起こった殺人事件の不確かな怪異をきっかけに、サロンに集った人々がそれぞれに自分が体験や見聞した、理屈だけでは説明できない出来事を語りだす。全員の話が終わったあとのシンとした静謐感が、日本の百物語と通じるところがあるのが面白く思った。それにしてもデュマの語り口の巧さ、さすがに引き込まれるものがある。

 

愛なんてセックスの書き間違い

 アメリカSF界の兄貴ことエリスンの一般小説を集めたもの。若書きのものも多いが、中篇の『ジェニーはおまえのものでもおれのものでもない』はメキシコとの国境を渡る情景がまざまざと脳裏に浮かんでくるし、単純に白黒割り切れない女性をめぐる描写が書かれた時代にしては相当に先進的。『パンキーとイェール大出の男たち』はプレッピーの世界を身もふたもなく描いて、現在のポピュリズム時代の予見すら感じさせる。エリスンという作家の横顔を知る上ではやはり読むべき短編集。