ナイフ投げ師

ナイフ投げ師

ナイフ投げ師

ミルハウザーはこれまでアンソロジーにて二編だけ読んだが、どちらも特に強く印象に残ることはなかった。が、こうして初めて単独編集でまとめて読んでみると作者こそが表題作の興行師と同じく、逸脱ギリギリの一線を追求して止まない観察者にして冒険者である事が判る。モラルの狭間、本物とまがい物の区別、意義と無意味の間、交流と自閉の違い。精緻な描写は淡々と積み上げられ、やがて…決壊することは稀。本書においては『出口』や『パラダイス・パーク』が相当するが、それ以外においてはそもそもがこれまでの描写自体に意味があったのかと頁を繰り返したくなるかもしれない、過激でないのにどこか危うい、あるいは非常に前衛的な文学を行っている人なのかもしれない。それにしても『ある訪問』の中で外野に置かれてぼやかされてるアツアツな夜の内情が気になるのぉ。『夜の姉妹団』の方はフェミニズム文法に沿うように読むことも十分に可能で、まったく別のベクトルで気になる。完成度ではこれが収録作中ベストかも。