ファンタジウム(1〜3)

ファンタジウム(3) (モーニング KC)

ファンタジウム(3) (モーニング KC)

月刊モーニング2連載。場末のキャバレーでの手品師で生涯を終えた祖父を持つ会社員が、その薫陶を受けたずば抜けた才能を持つ中学生と偶然に知り会う。生まれも育ちもまったく違う二人がマジックという一本の線で繋がれた時、お互いに新しい世界が開けていく…というストーリー。執拗とも取れるほど丹念な人間心理への描写や同じく精緻に取材された手品技術の表現がフェティシズムのほとんど感じられない淡白な絵柄で描かれるというバランスが絶妙で、自然と作品世界へと引き込まれる。ところで才能を生業としようとしてコンビで世間の荒波に乗り出していく話としては、土俵違いの少年漫画ながら「バクマン。」がある。そこでは主人公はスタート地点から恵まれた条件を持たされている(マンション一室を現実的必要性もなく維持できる経済力を持ちなおかつ夢に理解のある保護者、近親者に同職種プロ)が、本作ではあたかも対照的に難読症を発端とした不登校や愛情の表現が不器用で専横的な父に典型的な下町出身という設定からはじまり、主人公自身が持つ“武器”は生来の手の器用さと楽天的な性格、そしてマジックへの愛着だけ。つまり今の時代は青少年向けには“根気とやる気があっても最初から恵まれた環境にある者には勝てない”という前提を踏まえざるを得ず、成人読者には“それでも昔はあったかもしれないし将来あるかもしれない進歩的な希望を見たい”という欲望を満たす必要が娯楽にはあるってことかもなと思ったりもする。そんな「それでも人は…」という切ないまでの欲求を表現しているのが、本作でここぞというタイミングで多用かつ効果的に出てくるロングショット。その瞬間、ここではないどこかを遠い目で見たりあるいは錯覚にはてしなく近い夢を霞を通して眺める時間が、人間ことに大人にとっては必要なのだとつくづく思わされる。