不思議屋/ダイヤモンドのレンズ

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫)

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫)

新訳の影響もあってか、19世紀の短編とは思えないほど描写の筆致に時代からくる違和感がない。南北戦争に従軍してそこでのいざこざで死んだという作者フィッツ=ジェイムズ・オブライエンは長くなかった人生からいっても多作ではなかったそうだが、それでもアイデアの特異さと短編バリエーション(なお長編作品は書かなかった)の豊かさが著名作家陣とくらべても遜色ないのはこの傑作集で分かった。自分は特に中国ものの『手品師ピョウ・ルーが持っているドラゴンの牙』のイマジネーションと展開の大胆さ、オカルトと喪われた時代のノスタルジーが典雅に絡んだ『なくした部屋』が好きだ。困窮の中のユーモアに体験性の切実さがある『ハンフリー公の晩餐』がトリとして置かれているのは構成が見事。