国書刊行会の新しい選集「短編小説の快楽」の第一弾。どうも一般小説(純文学と呼ぶほどには堅くない)のあまり知られてない名手を中心に編むようだ。で、1928年に
アイルランドで生まれて現在イギリス在住のこの作者も初めて私は知りましたが、日常に息づく
キリスト教各宗派それぞれのニュアンスの出し方が絶妙ですね。もっとも巧すぎて『イ
エスタデイの恋人たち』みたいに訳者解説をよまないと十全に味わえないものもあったりするけど。しかし最も味わい深いのはあるいは田園生活への郷愁ものじゃないだろうか。じゃがいも飢饉の頃の名も無い人々の息吹を感じさせる『
アイルランド便り』しかり、
イングランドに住まう一人の女の生涯をピース・オブ・ライフの形で三部作として鮮やかに切り取る『
マティルダの
イングランド』しかり。特に後者の暖かいような哀しいような微妙な後味は忘れがたいです。この一篇だけでも読む価値があると思う。