ジーン・ウルフの記念日の本

“今日はなんの日?”というアメリカでの定番ブックレットを本歌取りした18の短編集。ユーモアとシニカル、ロマンチックとアクチュアルの様々な組み合わせが見られることで、全編読み通した後には自分の中に刻々と色を変え光を異なる面で捉えつづける、小さく硬い宝石を植えつけられた気分が残る。養子をモチーフにした短編でここまで清新な印象を与えられるとは予想だにできない『養父』(父の日)、救世主誕生を再演するその意味についての解釈が無限に拡がっていく『ラ・ベファーナ』(クリスマス)、秋の夕暮れのように視界がゆっくりとブラックアウトしてゆく不条理物語『フォーレセン』(労働者の日)、もっとも一般小説に近いルックスでかつ技巧に凝らされた『三百万平方マイル』(感謝祭の日)。あらゆる真実は、ひとつの顔を持たない。世界の美しさと醜さとは同時にそこに典拠する。