ミステリウム

ミステリウム

ミステリウム

犯罪を扱った小説という意味ではミステリの範疇に入るが、真犯人と呼べる対象の可能性が複数提示されたまま終わるあたり、これはむしろアンチ・ミステリとした方がまだ正確なカテゴライズかもしれない。謎の集団感染が起こった村で聞き取り調査をはじめたジャーナリストの卵が、文書作成したという二重構造で章立てが行われているが、対象者の語る個別のエピソードがまるで博物館のホコリをかぶりながらも生々しさを失っていない展示物のようで、押しが強くないのにグロテスク極まるという不思議な感触。これぞまさにマコーマック節。その事象は鮮明なようでいて、抑制された語り口によって平板なままで一定の距離以上は迫ってはこない。そこに、発語という行為そのものが持つ、魔術性が凝縮されているように感じる。