温泉一泊旅行に行った疲れ(無料オプションのカラオケや岩盤浴など非常にテーマパーク的に満喫できたのだが、普段ひきこもりがちなだけに旅行したという事実だけで何日も引きずる)やら、徐々に深まってきた朝晩の冷えやらでまたまた更新に間が空いてしまった。映画三本、本二冊の感想も溜まってしまったので、明日からぼちぼちやろうと思う。スマホタブレットでのテキスト打ちにももっと慣れたいところだ。そうすれば暖房した部屋で更新することができる。

2019年9月に観た映画まとめ

ゴールデン・リバー  ('18 アメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン/監督:ジャック・オーディーアール)

今年は、(え、この映画どこに救いを見出せばいいのかな)と言いたくなるような展開、終幕を見せるものが多かったけど、この作品もかなり難易度が高い。理想を夢見て実践した者が、途中加入の軽率な輩のせいで馬鹿げた最期を辿るが、原因をつくった張本人は時機を得ておだやかな帰路に着くという。うーん? キリスト教圏の世界観として理解するならば、神の世を信じることが出来る人の影響を受けて洗礼を通った不信心者が、受難の後に安寧を受けたという感じか。ならば、善き者の死も無駄ではなかったという事。総論としては風変わりな西部劇として面白かったが、しかし案外に西部劇の正道なのかもなとジャンルに詳しくない自分はうがったりした。

 

ジョアン・ジルベルトを探して ('18 スイス・ドイツ・フランス/監督:ジョルジュ・ガショ)

ドキュメンタリー映画ではなぜか雨のシーンが好きだなあ。撮られている対象の心がいちばん反映されているように感じるからだろうか。この作品で背景となっているリオの街は、どの天気でも物憂げで美しい。どこからもリズムとメロディーが漂っているかのような錯覚を映像から受ける。音楽に愛された場所、音楽に愛された人物。数々の証言から、孤独で風変わりな“ボサノヴァの神様”ジョアンの姿が浮かびあがる。しかし実像は最後まで煙ったガラスの背後のまま。それが作為的に感じられないところが胆。

 

バイオレンス・ボイジャー ('18/監督:宇治茶)

紙芝居の効果を活かしたアニメを一人で作りあげる<ゲキメーション>監督、宇治茶氏の作品は数年前に観た「燃える仏像人間」以来。今回もスライム玩具のようなドロドロ効果が鮮烈。人物への容赦の無さというか意図的な放りっぱなし感は前作を上回る勢いで、だが、現実の政権与党がいよいよ投げっぱなし政治をあからさまにしている現在、なにか爽快感として受け取れる余裕がない自分に気付いたりもした。

 

BS放送で視たもの>

デューン 砂の惑星 ('84 アメリカ/監督:デヴィッド・リンチ)

スターウォーズに似たセールスポイントを持つ同時代映画として、名前だけはそこそこ有名だが今ひとつシロウト受けはしていないマニアックSF映画として名高い作品として知ってはいたが、ようやくこの歳で本編を観る機会を得た。あー、これはたしかにいろんな作品で派生ネタみましたわ!! でもモザイク修正みたいな、カクカクしてた頃のポリゴンみたいな超能力格闘特殊効果はむしろ今みたら面白いというか新鮮。霊力みたいなものが戦闘能力と同じぐらいの影響を情勢に持っているあたりとか、あとリンチならではのアートなセンスとか、かなり自分は好みな方だった。こうなったら、今からでもホドロフスキー版も作っちゃってどちらも見比べてみたいものだ。

2019年9月に読んだ本まとめ

夢の本

 「夢」にまつわる記述を、さまざまな時代・場所・様式の書物からセレクトして抜粋した博覧強記で並ぶもののいないボルヘスならではのアンソロジー。それはもはや小宇宙の赴きである。世界最古の叙事詩とされるギルガメッシュ伝説から始まるのが粋すぎてのっけから興奮した。

2019年8月に観た映画まとめ

クリムト  エゴン・シーレとウィーン黄金時代 ('18 イタリア/監督:ミシェル・マリー)

クリムトとシーレの没後100年を記念して作られたドキュメンタリー。しかし構成がどうも甘く、芸術・文化面にも科学・政治面でも焦点がぼやける結果になってしまった感じがある。しかし当時の女性の声を紹介するために挙げられた無名の日記作者の少女の末路には、張り詰めたような気持ちになった。

2019秋期のアニメ視聴状況

NETFLIXオリジナルアニメは、テレビの放送クールとは関係なく配信されるので不意を突かれることが多いのだけど、最近はアメリカ人監督、脚本家と日本のアニメスタジオ・サテライトが組んだ『キャノンバスターズ』全12話を視た。ファンタジックなティーンズ向けアニメかと思いきや、シニカルでゴアな大人向けの色合いが濃い企画で、こういった意外性はまさにネトフリならでは。かなり面白く視たので、第二期の実現を期待したい。

星合の空(ニコニコ動画

赤根監督の新作、しかもオリジナル企画が視られるのは嬉しい限り。スポーツものは得意じゃないけど、今回は取り扱ってるソフトテニスにまつわる描写も興味深く楽しんでいる。できればあまり、類型的な思春期ドラマにならなければいいなと思ってもいる。

 

フェアリーゴーン <第二期>(NETFLIX

繊細なキャラクター・ドラマ描写が今回も足を引っ張っているようでもあり、特長にもなっている感じでもあり。とにかく物語がきちんと終結してくれればそれで良し。

 

BEASTARSNETFLIX

社会の縮図である全寮制学園で、多様性という理念の裏側に緊張の糸が張る。擬人化デザインがかなりモデル動物よりの造形で味わいが深い。

 

歌舞伎町シャーロック(NETFLIX

醸そうとしていることに技法が追いついてない瞬間も多少あるが、題材のオリジナリティとエンタメ要素の盛り盛り感、そして新宿という街の雑多な匂いは十分にフック。

 

真・中華一番!NETFLIX

要所要所で多段塗り、それ以外はハイライトを塗り残しホワイトで表現する省エネ配色がキャラクターに採用されており、揶揄じゃなくていい効果出してる。気楽なカジュアルさ。第一話は素材を活かしたスタンダードな調理、第二話ではアクロバティックでシュールな料理に変わっており、導入の巧さが序盤から光る。

 

前期からの継続は

Dr.STONENETFLIX

ロジカルにプロットとアイデアが絡ませられつつも、ドラマの主題は旧来のジャンプ的なのが興味深い。

 

 

子猫たちは箱の中を歩きまわるようになり(自分は見てないが、壁を越えようと後ろ肢でぴょんと跳ねたりもするらしい)、ますます可愛らしさが増しているが、1,2匹は離乳食を少し口にするようにもなってきた。つまり、いよいよ概念から生物へと彼らはこちら側の枠内に入ってこようとしている。これまでは他者を一切害することなく-旺盛に吸い付かれる母猫の乳房は少々痛そうだったが-、糞便を出すこともなかった存在が、“猫”になろうとしている。どこか不安もあるが、成猫になったこの仔たちに早く会いたく思う。

 

 

2019年8月に読んだ本まとめ

短編画廊

短編画廊 絵から生まれた17の物語 (ハーパーコリンズ・フィクション)

短編画廊 絵から生まれた17の物語 (ハーパーコリンズ・フィクション)

 

 21世紀中葉のアメリカを静的に描いたエドワード・ホッパーの絵画には、なぜか不穏さが常に漂う。ゆえにそれらからインスパイアされた短編小説をあつめたこのアンソロジーにはミステリ作品が多くなるが、そんな中でもマジックリアリズム色の濃いもの、ノンフィクション要素の強いものが入っていてバリエーションの幅が広い。一つ一つのクオリティの高さも伴っていてとても楽しめた一冊。ミニ画集としてもシンプルさが美しい装丁になっており、手元に置いておきたくなる仕上がり。

 

 

Xという患者  龍之介幻想

Xと云う患者 龍之介幻想

Xと云う患者 龍之介幻想

 

近年ますます、予言者的に先進に富んだ精神性が評価される芥川を主人公として、彼が心をしおれさせていく過程を、本人の名作小説をオマージュする連作形式で描く。真綿で少しずつ窒息させられていくかのような昭和ヒトケタ台の、明るさと暗さが錯綜する空気感、やはり現在の日本と通底するところがあるなと読み進めた。

 

 

心を操る寄生生物

心を操る寄生生物 :  感情から文化・社会まで

心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで

 

 寄生生物に侵入された人間は、思考や行動パターンが変えられてしまうこともあるという、これまであまり研究されてこなかった領域に最近はいろいろと新発見があるという内容。その新発見の諸々以上に、科学にはほんとにまだまだ未開拓地が存在するのだなという事が新鮮な驚きだった。猫からヒトに移る寄生虫が、にんげんをねこに強い愛着を持たせるという研究結果は、自分の経験からいっても信憑性があるとおもうます.

 

全身編集者

https://booth.pm/ja/items/1316273

2017年に逝去した漫画編集者・白取千夏雄が遺した発言を、彼の薫陶を受けた劇画狼氏がまとめる形の自己出版本。ひたすらに漫画を愛し、その周辺の人を尊び、出版の現場を支えてきた一人の漫画好きの半生記として、その駆け抜けたような生き方が鮮やかに印象に残った。全体の文章量はさほど多くない章立てだが、それがかえって成人してからの生涯の肌感覚としてリアルに感じられる(ジーン・ウルフの短編『フォーレセン』を思い出すなど)。あとがきに、彼とともに月刊ガロ晩期を支えた出資者が登場するが、そこで読者はひとつの不意打ちを食らうことになる。しかしそういった構成もまた、白取氏自身の想定内だったのだろうと思う。それが彼の職業者としての矜持だと自分には見えた。それはさておき、古びた木材屋の二階で在庫を上げ下げしたり、こまかな事務作業も編集者が担当したりしたガロ編集部の様子は読んでいて手放しで楽しく、90年代から00年代にかけて定期購読していた頃の感覚を懐かしく思い出したり。