雨は降るものの、日中も暮れてからも気温は20度前後と安定していて、かなり過ごしやすい。寒くも暑くもないこのありがたさ。

 

具体的な予定は別にないのだが、最近は職場近くのアパート物件をネットで眺めることがよくある。今よりも諸々とシンプルな暮らしがしてみたいという欲求が常に頭をもたげる。一種の現実逃避に過ぎないのだけど。

2019年7月に観た映画まとめ

主戦場 ('19/監督:ミキ・デザキ)

少女像をめぐって、日本からやってきた発言者が総じて薄笑いで自分たちの間しか通じない独善的な歴史修正主義以前の女性蔑視コメントを口から垂れ流し、アメリカ人議長から「恥を知りなさい」と一喝される前後の映像を観れただけでも劇場に足を運んだ甲斐があった。フリーメーソンのような存在感を増す『日本会議』の影響力にまで踏み込んでおり、淡々とした雰囲気のドキュメンタリーであるからこそ当事者意識の高まりを持たされずにはいられない。上映後にほぼ満席の館内で拍手が起こったが、自分にはとてもそんな元気は湧かなかった。

 

海獣の子供 ('19/監督:渡辺 歩)

ヒロインの、少年二人との出会いとひと夏の冒険という部分ではちょっとワクワクするものがあった(『夏は、体が軽い!』)ものの、深海の表現ではあまり惹かれるものがなかったのは自分が明るく陽光に透き通る海面の方が好きなせいかもしれない。あっ、食事シーンは美味しそうだった。テーマへの接近が浅かったのも気になった。結果としては原作とはかなり別ものになったなという感想。

 

魂のゆくえ ('17 アメリカ/監督:ポール・シュレイダー)

原題は『first reformed』。カルヴァン派の小さな教会の名前。主人公は大病のしるしに怯える敬虔な神父。彼はひとりの環境保護主義の男の自殺を目撃し、その身重の妻のメンタルをケアしながらも、彼自身が強迫観念に追い詰められていく。クライマックスでのジタバタぶりはややコメディめいてはいるものの、その滑稽さすらもすべては延々と続く相対主義の現代を示しているようで、笑えるようで笑えないようななんとも座りの悪さが全編に満ちている。が、それは決してこの作品の姿勢が優柔不断だというわけではない。そうする事でしか描けない題材なのだ。ラストにカタルシスがあるにはあるが、それもまた諸々のレイヤーの条件付き。結局は個々が考え続けるしかない。

 

嵐電 ('19/監督:鈴木卓爾)

京都西部を走る嵐山鉄道沿線には映画製作にまつわる施設が複数ある。そんな周辺を舞台に、三組の世代が異なるカップルが恋をめぐって現実と幻想とを歩き回る。かつてあった絆、始まりつつある恋、形になるかもしれない思い。それらはまるで一つの時間軸に存在する、とある二人の過去・現在・未来のようだ。見失ったかのようで、旅に出た場所でふっと再会したように感じる時もある。不本意に手放してしまった何かを見つけにいく、そういう電車の乗り方もある。

 

誰もがそれを知っている ('18 スペイン・フランス・イタリア/監督:アスガー・ファルハディ)

姉の結婚のために帰郷したスペインの実家で、娘の誘拐騒ぎが起こる。錯綜する人間関係の中で持ち上がる二つの一族のあいだの確執。宴のあと、残った静寂だけが拭い去れないしみとして残る、その虚脱感。まさしく誰もが覚えのあるありふれた人生の一幕。中盤でのパーティのラテン気質あふれるライブ演奏シーンが素晴らしかった。表裏一体なんだよね、それと呪わしいトラブルの根源とは。

 

(ネット配信で視たもの)

ヒステリア ('11 イギリス・フランス・ドイツ・ルクセンブルク/監督:ターニャ・ウェクスラー)

かつてのロマンチックコメディー映画を踏襲した気軽さが魅力を発揮。ウーマンリブな意識で社会改良運動に励む姉と、才色兼備で控えめな父親のお気に入りな妹の間で揺れる、若き医師を主人公に女性向け性具の開発物語を実話を元に辿る。富裕なマダムたちに治療と称したマッサージを手づから施すシーンをどぎつくなく演出できたのは、主演のヒュー・ダンシーのソフトな雰囲気が大きい。

子猫誕生からまもなく三週間。標準的に10日前後で眼がそろって開いた四匹は、ほぼ同じ発育ぶり。ここ数日はお互いにじゃれあうような素振りさえあり、毛づくろいの前身のような仕草(余談だがこの子猫が薄い自分の肢先をしゃぶる様子が私は大好きだ)を見せてもいる。柄も日ごとに濃く浮き上がってきて(母猫譲りのライラックポイントが二匹いる)おり、ほんとうに目に見えて動物は成長が早い。

 

優しい鬼

優しい鬼

優しい鬼

 

南北戦争直前のアメリカ中東部、他に人影もない辺鄙な場所で粗末な建物に暮らすとある家族。刻々と様相を変える成員たちの半世紀におよぶ姿を、あくまで穏やかな口述で綴ることで人間と歴史のダイナミズムが少しずつ立体的に映りはじめる。そして読み終えるころには、散文の印象が一転して詩作に結実している感動を静かに発見した。言葉なき市井の人々を扇情的なスタイルに頼らず浮かび上がらせ、振り向いた時に人生のパノラマを見出すという小説ならではの手腕で、近作ではビアンカ・ベロヴァー「湖」が読後感が似ている。一人ひとりの力では自分自身の姿すら鳥瞰して捉えるのは困難だが、細い声をあつめて縒り合わせる事がもし出来れば、その時、世界は支流を流れだす。かそけき音で歌いだす。鬼たるヒトは優しい手をそっと差しだす。

 

父の命日で菩提寺へ。ここ数日の朝晩の冷え込みで自律神経の調子を崩しており車中は難渋したものの、到着したあとはスッと気分が良くなったのが不思議。それで、亡くなった当日の父の心持ちをあらためて想像しながら、ご住職の読経で手を合わせた。

 

「闇の中の男」

闇の中の男

闇の中の男

 

 大病が見つかった娘、心労に苦しむ孫娘とともに暮らす老いた男が、眠れない床でじっと闇に眼を凝らす。彼の脳裏には、創造主である自分自身を次元を超えて殺す宿命を負ったひとりの若い男の姿が動きはじめていた…という入れ子構造の小説だが、終盤に入る前にそれはあっさりと方がつく。やや拍子抜けだったが、そこから物語は主人公の一族に起こった不幸な出来事の細部へとクローズアップしていき、そしてほとんど直接的なまでに衝撃の視覚イメージへとあらゆる支流が結像していく。

9.11後のアメリカ人の渾沌きわまる苦悩とその克服への意思をここまで追体験させられた記憶はない。オースターの筆力は圧倒的だ。

鬼滅の刃」第12巻から15巻を再読。以前に読んだ時は時間に追われていたとはいえ、二回目でもまったく面白さの実感に変わりがないどころか、むしろコマ内の情報度をより深く味わえることに気付く。作者はやはりとんでもなく文化強度の高い環境で育っていると感じる。錦絵のけれん味、説話の無常観、民話の切迫さ。これらの混淆ぶりが、説明は難しいが現代的というか先鋭的に融合されて昇華されている。ほんとに今のジャンプはとんでもない才能を抱えていて、その作家たちはマガジン系の諌山創と肩を並べるレベルなのだ。

そしてもうひとりのジャンプの俊英にして異才の藤本タツキの本誌初連載作「チェンソーマン」。露悪的というにはあまりにも現実の空気を自然に採り入れた作風は前作「ファイアパンチ」以上になっていて、最新第4巻を読んだあとも戸惑うばかり。それは善悪倫理に対して個人としての思い入れが読み取れず、それでいてなぜか(…というかそれゆえにというか)不快感がないから。ファンタジー色が強かった当初から展開して、国家における暴力装置への視点が入っており飽きないが、それ以上に個性が強すぎるはずのキャラクターたちの感情の動きに親近感を持ってしまう。しかし本当に、まったく作者像がつかめない漫画だ。不思議。

第54回2019秋調査

アニメ調査室(仮)さんにて開催中。以下、回答記事です。

 

2019秋調査(2019/7-9月期、終了アニメ、48+7作品) 第54回

01,MIX,x
02,ギヴン,z
03,フリージ,x
04,鬼滅の刃,S
05,愛玩怪獣,x

06,手品先輩,x
07,闇芝居 七期,x
08,グランベルム,x
09,コップクラフト,F
10,まちカドまぞく,x

11,スタミュ 第3期,x
12,彼方のアストラ,F
13,ソウナンですか?,x
14,魔王様、リトライ!,x
15,フルーツバスケット,x

16,ダンベル何キロ持てる?,x
17,キャロル&チューズデイ,F
18,かつて神だった獣たちへ,F
19,ナカノヒトゲノム【実況中】,x
20,おしりたんてい 第3シリーズ,x

21,トロールズ:シング・ダンス・ハグ!,x
22,われしょ! 我ら! 小動物愛護委員会,x
23,キラキラハッピー ひらけ! ここたま,x
24,テレビ野郎ナナーナ わくわく洞窟ランド,x
25,機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星,x

26,ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかII,x
27,ロード・エルメロイII世の事件簿 魔眼蒐集列車 Grace note,x
28,うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない。,x
29,通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?,x
30,可愛ければ変態でも好きになってくれますか?,x

31,カードファイト!!ヴァンガード 続・高校生編,x
32,アイカツフレンズ! かがやきのジュエル,x
33,この世の果てで恋を唄う少女YU-NO,x
34,イナズマイレブン オリオンの刻印,F
35,FAIRY TAIL ファイナルシリーズ,x

36,Re:ステージ! ドリームデイズ♪,x
37,博多明太! ぴりからこちゃん,x
38,ありふれた職業で世界最強,x
39,荒ぶる季節の乙女どもよ。,x
40,からかい上手の高木さん2,x

41,戦姫絶唱シンフォギアXV,x
42,女子高生の無駄づかい,x
43,とある科学の一方通行,x
44,異世界チート魔術師,x
45,遊戯王ヴレインズ,F

46,胡蝶綺 若き信長,x
47,(全22話) 凹凸世界,x
48,(全39話) ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風,S
49,(1期) ムヒョとロージーの魔法律相談事務所,F
50,(特番 8話) 指先から本気の熱情 幼なじみは消防士,x

51,(特番 4話) グリザイア:ファントムトリガー THE ANIMATION,x
52,(ネット配信) ファイトリーグ ギア・ガジェット・ジェネレーターズ,x
53,(ネット配信) みるタイツ,x
54,(7月終了) わしも (7期),x
55,パウ・パトロール,x

 

{総感}

いつになく、視聴中途になってしまうことが多いシーズンでした。

{寸評}

鬼滅の刃」S:ほぼ毎回、二周は視聴していた。まず映像作品単体としてクオリティの安定度と完成度がずば抜けており、さらに脚色に原作へのこのうえなく深い敬意が感じられ、また関連各所にて大ヒット。結果として原作漫画のポテンシャルを引き出す事に成功しており、ジャンプアニメ最高の作品の一つとなった。今後の制作継続にも期待したい。

「(全39話) ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」S:制作都合と思われる総集編が何度かあったためか、最終2話のみ日にちを置いての放送という形になったが、エピローグを印象付ける意味ではむしろ良かったかもしれない。本編の前日譚でほとんどが構成される最終話『眠れる奴隷』は、第六部以降の思索的な雰囲気を先取りしており印象深い。