2019年8月に読んだ本まとめ

短編画廊

短編画廊 絵から生まれた17の物語 (ハーパーコリンズ・フィクション)

短編画廊 絵から生まれた17の物語 (ハーパーコリンズ・フィクション)

 

 21世紀中葉のアメリカを静的に描いたエドワード・ホッパーの絵画には、なぜか不穏さが常に漂う。ゆえにそれらからインスパイアされた短編小説をあつめたこのアンソロジーにはミステリ作品が多くなるが、そんな中でもマジックリアリズム色の濃いもの、ノンフィクション要素の強いものが入っていてバリエーションの幅が広い。一つ一つのクオリティの高さも伴っていてとても楽しめた一冊。ミニ画集としてもシンプルさが美しい装丁になっており、手元に置いておきたくなる仕上がり。

 

 

Xという患者  龍之介幻想

Xと云う患者 龍之介幻想

Xと云う患者 龍之介幻想

 

近年ますます、予言者的に先進に富んだ精神性が評価される芥川を主人公として、彼が心をしおれさせていく過程を、本人の名作小説をオマージュする連作形式で描く。真綿で少しずつ窒息させられていくかのような昭和ヒトケタ台の、明るさと暗さが錯綜する空気感、やはり現在の日本と通底するところがあるなと読み進めた。

 

 

心を操る寄生生物

心を操る寄生生物 :  感情から文化・社会まで

心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで

 

 寄生生物に侵入された人間は、思考や行動パターンが変えられてしまうこともあるという、これまであまり研究されてこなかった領域に最近はいろいろと新発見があるという内容。その新発見の諸々以上に、科学にはほんとにまだまだ未開拓地が存在するのだなという事が新鮮な驚きだった。猫からヒトに移る寄生虫が、にんげんをねこに強い愛着を持たせるという研究結果は、自分の経験からいっても信憑性があるとおもうます.

 

全身編集者

https://booth.pm/ja/items/1316273

2017年に逝去した漫画編集者・白取千夏雄が遺した発言を、彼の薫陶を受けた劇画狼氏がまとめる形の自己出版本。ひたすらに漫画を愛し、その周辺の人を尊び、出版の現場を支えてきた一人の漫画好きの半生記として、その駆け抜けたような生き方が鮮やかに印象に残った。全体の文章量はさほど多くない章立てだが、それがかえって成人してからの生涯の肌感覚としてリアルに感じられる(ジーン・ウルフの短編『フォーレセン』を思い出すなど)。あとがきに、彼とともに月刊ガロ晩期を支えた出資者が登場するが、そこで読者はひとつの不意打ちを食らうことになる。しかしそういった構成もまた、白取氏自身の想定内だったのだろうと思う。それが彼の職業者としての矜持だと自分には見えた。それはさておき、古びた木材屋の二階で在庫を上げ下げしたり、こまかな事務作業も編集者が担当したりしたガロ編集部の様子は読んでいて手放しで楽しく、90年代から00年代にかけて定期購読していた頃の感覚を懐かしく思い出したり。