ぴったんこカンカン」で周防正行監督が、マックブックを開いてご自身と配偶者である草刈民代さんとの暮らし(睡眠や食事など)ぶりをスケジュール形式で記録されていたのを見て、そうだ今夜から自分も覚え書きを始めてみようと思い立った。ここ数年、取れにくい疲労で流されるばかりの日々なので…

ところで、本日行こうとして観損ねた映画。

「ガラスの城の約束」ブリー・ラーソンウディ・ハレルソン競演。ライターとして成功した女性が、今までひた隠してきたホームレス同然の両親との距離感を見直す内容。親子関係の構図にすこし自分の中に似通ったものを感じたので行きたかったが、ちょっと気分が外出に向かなかった。

2019年7月に読んだ本まとめ

恋愛制度、束縛の2500年史  -古代ギリシャ・ローマから現代日本まで-

 恋愛は社会構造と無縁ではない一つのシステムである…という観点から欧米と日本との差異を解説する手際が鮮やかかつ簡潔(かつ適度にユーモラス)でかなり腑に落ちるところがあった。ギリシャ神話から聖書にいたるまで、絶対的な天上の観念であった信頼・契約を背景に持つ個人間の友愛があらゆる関係に影響している欧米の“恋愛”を外郭だけ輸入したままで来ている日本の実情は、率直に言って自分には違和感がずっとある。

 

千霊一霊物語

千霊一霊物語 (光文社古典新訳文庫)

千霊一霊物語 (光文社古典新訳文庫)

 

 フランス革命から数十年後のとある郊外の村で起こった殺人事件の不確かな怪異をきっかけに、サロンに集った人々がそれぞれに自分が体験や見聞した、理屈だけでは説明できない出来事を語りだす。全員の話が終わったあとのシンとした静謐感が、日本の百物語と通じるところがあるのが面白く思った。それにしてもデュマの語り口の巧さ、さすがに引き込まれるものがある。

 

愛なんてセックスの書き間違い

 アメリカSF界の兄貴ことエリスンの一般小説を集めたもの。若書きのものも多いが、中篇の『ジェニーはおまえのものでもおれのものでもない』はメキシコとの国境を渡る情景がまざまざと脳裏に浮かんでくるし、単純に白黒割り切れない女性をめぐる描写が書かれた時代にしては相当に先進的。『パンキーとイェール大出の男たち』はプレッピーの世界を身もふたもなく描いて、現在のポピュリズム時代の予見すら感じさせる。エリスンという作家の横顔を知る上ではやはり読むべき短編集。

2019年6月に観た映画まとめ

ホフマニアダ ホフマンの物語 ('18 ロシア/監督:スタニフラフ・ソコロフ)

ストーリー構成に取りとめがなく、筋を追うのにやや苦労したが、すべては作家として名を成す前の青年ホフマンの心情風景だと思えば、むしろその思い切った企画の高尚さに感心する。雰囲気は幻想的だが人形の造型はどこか歪つでそこが印象に残った。なおひときわ哀切だったホフマンの幼年期の母から教会へ預け渡されるエピソードは、ウィキペディアを読む限りでは確認されなかった。どうもこの映画ほどには実際のホフマンの生涯は不遇でなかったようなのだが、もっと資料をあたらないことにはよく分からない。

サンセット ('18 ハンガリー、フランス/監督:ネメシュ・ラースロー)

帝政オーストリア時代のハンガリーを舞台に、高級宝石店をめぐる過去の謎を追う若い女性の不安な視点でカメラが綴られる。土ぼこり舞う大通りの隠せない未開感、そらぞらしい公園での昼の宴、闇が荒々しい焚き火に部分のみ照らされる貧民街の陰影。そして静まり返った屋内での裸足。あんな禍々しい裸足の意味合いを示した情景はこれまで見たことがない。すべては言葉の裏側にあり、それらは最後に大雨が打ち付ける塹壕のなかの一対のまなざしに結晶する。これこそが映画だ。

たちあがる女 ('18 アイスランド、フランス、ウクライナ/監督:ベネディクト・エルリンクソン)

ボランティアで聖歌隊を指揮する平凡な中年女。しかし彼女は単独で環境破壊企業にプロテストする実力行使の運動家だった。巨大な送電塔に立ち向かい、弓を放ち太い電線を引き切る姿は、神話の英雄のようでありドン・キホーテのようでもある。おそらくは企業を倒すことはできず、計画は変えられず、人々の大勢の流れもこれまで通り。しかし彼女は最後に完璧な理解者と、未来への希望を託す存在とを得た。渡った海外で洪水した町へとバスから降り立つその姿に、闘いは終わることはないと知らされる。手法面では、テロリストとも捉えられそうな主人公の扱いをフォローするための想像空間上のバックバンドの存在が効いていた。迫る危機の前の物悲しい表情と演奏が忘れられない。

ねじれた家 ('17 イギリス/監督:ジル・バケ=ブレネール)

アガサ・クリスティが自ら最高傑作としていた推理小説が原作。動機に多重性がある点が見ごたえあった。かつて恋愛関係にあった男女の微妙な機微もまた。富裕な一族の邸宅の造型とそれを自然に映す撮影が繊細。ただラストシーンはクラシック映画の荒さをあえて踏襲している観があって画竜点睛を欠いていたかも。

第53回2019夏調査

アニメ調査室(仮)さんにて開催中。以下、回答記事です。

 

2019夏調査(2019/4-6月期、終了アニメ、42+1作品) 第53回

01,どろろ,B
02,賢者の孫,x
03,消滅都市,x
04,川柳少女,x
05,RobiHachi,x

06,女子かう生,x
07,さらざんまい,A
08,この音とまれ!,x
09,ゾイドワイルド,x
10,群青のマグメル,x

11,からくりサーカス,x
12,異世界かるてっと,x
13,超可動ガールズ1/6,x
14,ワンパンマン 第2期,x
15,なんでここに先生が!?,x

16,ノブナガ先生の幼な妻,x
17,ひとりぼっちの○○生活,x
18,ぼくたちは勉強ができない,x
19,みだらな青ちゃんは勉強ができない,x
20,ストライクウィッチーズ 501部隊発進しますっ!,x

21,ほら、耳がみえてるよ! 畏,看見耳朶拉 (第2期),x
22,アイドルマスター シンデレラガールズ劇場 CLIMAX SEASON,x
23,新幹線変形ロボ シンカリオン THE ANIMATION,x
24,カードファイト!! ヴァンガード (2018年版),x
25,フューチャーカード神バディファイト,x

26,叛逆性ミリオンアーサー (2期),x
27,文豪ストレイドッグス (3期),x
28,八十亀ちゃんかんさつにっき,x
29,世話やきキツネの仙狐さん,x
30,真夜中のオカルト公務員,x

31,八月のシンデレラナイン,x
32,盾の勇者の成り上がり,x
33,BAKUMATSUクライシス,x
34,Fairy gone フェアリーゴーン,B
35,KING OF PRISM Shiny Seven Stars,x

36,なむあみだ仏っ! 蓮台UTENA,x
37,進撃の巨人 Season3 Part.2,S
38,(全12話) メルヘン・メドヘン,x
39,(ネット配信) アニメぷそ煮コミ,x
40,(特番 8話) ちいさなプリンセス ソフィア (3期),x

41,(特番 8話) 洗い屋さん! 俺とアイツが女湯で!?,x
42,(特番 6話) 続・終物語,x

t1,(37話まで) ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風,A

 

(以下、寸評)

 

どろろ」B:中だるみが残念。もしかしたら1クールでコンパクトにストーリー構築した方が良かったかも。殺陣作画の見所の多さはかなりすごい。

「さらざんまい」A:作家性がここまで高いテレビシリーズをテン年代の終盤に観られて嬉しい。少年同士の友愛を清々しく愛らしく描いていて毎週眼福だった。

「Fairy gone フェアリーゴーン」B:オリジナルアクション作という事で楽しめたが、分割2クールの中締めとしてはイマイチ。ファンタジー色をもっと貪欲に見せてほしかったとも思う。

進撃の巨人 Season3 Part.2」S:第一期と同じほど充実した演出、作画、構成だった。最終シーズンも楽しみ。

(37話まで) 「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」A:ところどころ、展開というかスタンドバトルの経過で理解しかねるところがある以外は演出に外したところがない。ファンによるファンのための、ファン以外にも伝わる力強さはこれまでのシリーズと同じかより高まっている。

2019夏期のアニメ視聴状況

今期はオール配信視聴で事足りるので気が軽い。

 

コップクラフト (Gyao!)

村田蓮爾キャラ原案はわりかし鬼門ではあるが、板垣紳監督の愛嬌のあるユーモアが基調の演出は好み。

BEM (ニコニコ動画)

これも村田蓮爾キャラ原案。なにかどちらも、GONZO最盛期の00年代前半を思わせる空気である。「妖怪人間ベム」という何度もリメイクされた名作へのリスペクトはしっかりしてそうと感じた。

Dr.STONE (NETFLIX)

子供なぜなに科学室…的な教育番組テイストと、荒削りな少年漫画っぽさとがいい塩梅。キャラデザインも線の多いBoichi絵を上手く落とし込んでいる。

炎炎ノ消防隊 (NETFLIX)

エクソシスト消防士。既存作品のテイストとオリジナリティの強い部分箇所とがせめぎあう感じ、嫌いじゃない。

 

前期からの継続分は、

鬼滅の刃 (ニコニコ動画)

2クールめもクオリティ落ちず。善逸と伊之助とのパートナーシップが激闘の中に微笑ましくも温かい。

キャロル&チューズデイ (NETFLIX)

そんなに面白くないが、切るほどつまらなくもない。マーズ・ブライテストのGGKとシベールのパフォーマンスシーンはかなり良かった。

 

NETFLIXの新配信では、

聖闘士星矢 Knights of the Zodiac

7SEEDS

それぞれ第一シーズンを視聴完了。

どちらもほどよい面白さ(説明がやや難しい)でサクサクと視られて良いです。

2019年5月に読んだ本まとめ

胃袋の近代

胃袋の近代―食と人びとの日常史―

胃袋の近代―食と人びとの日常史―

 

これまで社会学で省みられることが少なかった戦前の市井の食事情を、第一次産業から第二次産業へと人口が移入して都市圏へ大きな移動があった背景を焦点にして統計と個人の手記とからあぶりだす。保存のきいて安価な沢庵漬けが今とは問題にならないほど食卓で大きな存在だったことが分かる繊維工場の女性寮での情景が活き活きと浮かびあがる章が特に印象に残る。

 

ソヴィエト旅行記

ソヴィエト旅行記 (光文社古典新訳文庫)

ソヴィエト旅行記 (光文社古典新訳文庫)

 

 世界で初めて成立した社会主義国家、ソヴィエト連邦。理想国家への賛辞が高まる最中に著名文化人として招待されたジッドの手記の調子が、都市を移動して中央から離れていくごとに、少しずつ陰っていくさまに臨場感がある。ジッドとて出来ることならソ連のうまくいっている部分だけを見て称揚だけをしていたかった事だろう。それでも彼の作家、国家構成員としての誠実さが論争の渦中に巻き込まれてでも欺瞞を許さなかった。ジッドの勇気ある姿勢が提議する命題は、100年後の今でもまったく古びていない。

 

我的日本

我的日本:台湾作家が旅した日本

我的日本:台湾作家が旅した日本

 

台湾作家たちがそれぞれに日本各地への思いをエッセイに綴る。楽しくきれいな面だけでなく、モヤモヤした感情も時にみえるのがよい塩梅のコンセプト。石川県民としては、金沢に定宿を持つ女性作家が小松空港の入り口で見た曇り空の晴れ間に思わず見とれる箇所に(分かってるな~)と頷くことしきり。

 

2019年6月に読んだ本まとめ

湖 

湖

 

 前半は(ああ、世界のありふれた残酷さを淡々と描き出す系か…チョイス間違えたな)と読み進めていたが、折り返したあたりからテーマが研ぎ澄まされつつ現れてくる。主人公の少年が村落から都市へと移入すると同時に社会への視点が現代化していくが、相対化して達観というわけでもなく、ただ落ち込み絶望するでもなく、決して解け切れない謎こそが現実というものだと少年が肌身で感じ取ることで物語は終幕する。こういうアイデアの奇抜さが売りでない小説こそずっと記憶に残る気がした。