胃袋の近代
これまで社会学で省みられることが少なかった戦前の市井の食事情を、第一次産業から第二次産業へと人口が移入して都市圏へ大きな移動があった背景を焦点にして統計と個人の手記とからあぶりだす。保存のきいて安価な沢庵漬けが今とは問題にならないほど食卓で大きな存在だったことが分かる繊維工場の女性寮での情景が活き活きと浮かびあがる章が特に印象に残る。
ソヴィエト旅行記
世界で初めて成立した社会主義国家、ソヴィエト連邦。理想国家への賛辞が高まる最中に著名文化人として招待されたジッドの手記の調子が、都市を移動して中央から離れていくごとに、少しずつ陰っていくさまに臨場感がある。ジッドとて出来ることならソ連のうまくいっている部分だけを見て称揚だけをしていたかった事だろう。それでも彼の作家、国家構成員としての誠実さが論争の渦中に巻き込まれてでも欺瞞を許さなかった。ジッドの勇気ある姿勢が提議する命題は、100年後の今でもまったく古びていない。
我的日本
台湾作家たちがそれぞれに日本各地への思いをエッセイに綴る。楽しくきれいな面だけでなく、モヤモヤした感情も時にみえるのがよい塩梅のコンセプト。石川県民としては、金沢に定宿を持つ女性作家が小松空港の入り口で見た曇り空の晴れ間に思わず見とれる箇所に(分かってるな~)と頷くことしきり。