2019夏期のアニメ視聴状況

今期はオール配信視聴で事足りるので気が軽い。

 

コップクラフト (Gyao!)

村田蓮爾キャラ原案はわりかし鬼門ではあるが、板垣紳監督の愛嬌のあるユーモアが基調の演出は好み。

BEM (ニコニコ動画)

これも村田蓮爾キャラ原案。なにかどちらも、GONZO最盛期の00年代前半を思わせる空気である。「妖怪人間ベム」という何度もリメイクされた名作へのリスペクトはしっかりしてそうと感じた。

Dr.STONE (NETFLIX)

子供なぜなに科学室…的な教育番組テイストと、荒削りな少年漫画っぽさとがいい塩梅。キャラデザインも線の多いBoichi絵を上手く落とし込んでいる。

炎炎ノ消防隊 (NETFLIX)

エクソシスト消防士。既存作品のテイストとオリジナリティの強い部分箇所とがせめぎあう感じ、嫌いじゃない。

 

前期からの継続分は、

鬼滅の刃 (ニコニコ動画)

2クールめもクオリティ落ちず。善逸と伊之助とのパートナーシップが激闘の中に微笑ましくも温かい。

キャロル&チューズデイ (NETFLIX)

そんなに面白くないが、切るほどつまらなくもない。マーズ・ブライテストのGGKとシベールのパフォーマンスシーンはかなり良かった。

 

NETFLIXの新配信では、

聖闘士星矢 Knights of the Zodiac

7SEEDS

それぞれ第一シーズンを視聴完了。

どちらもほどよい面白さ(説明がやや難しい)でサクサクと視られて良いです。

2019年5月に読んだ本まとめ

胃袋の近代

胃袋の近代―食と人びとの日常史―

胃袋の近代―食と人びとの日常史―

 

これまで社会学で省みられることが少なかった戦前の市井の食事情を、第一次産業から第二次産業へと人口が移入して都市圏へ大きな移動があった背景を焦点にして統計と個人の手記とからあぶりだす。保存のきいて安価な沢庵漬けが今とは問題にならないほど食卓で大きな存在だったことが分かる繊維工場の女性寮での情景が活き活きと浮かびあがる章が特に印象に残る。

 

ソヴィエト旅行記

ソヴィエト旅行記 (光文社古典新訳文庫)

ソヴィエト旅行記 (光文社古典新訳文庫)

 

 世界で初めて成立した社会主義国家、ソヴィエト連邦。理想国家への賛辞が高まる最中に著名文化人として招待されたジッドの手記の調子が、都市を移動して中央から離れていくごとに、少しずつ陰っていくさまに臨場感がある。ジッドとて出来ることならソ連のうまくいっている部分だけを見て称揚だけをしていたかった事だろう。それでも彼の作家、国家構成員としての誠実さが論争の渦中に巻き込まれてでも欺瞞を許さなかった。ジッドの勇気ある姿勢が提議する命題は、100年後の今でもまったく古びていない。

 

我的日本

我的日本:台湾作家が旅した日本

我的日本:台湾作家が旅した日本

 

台湾作家たちがそれぞれに日本各地への思いをエッセイに綴る。楽しくきれいな面だけでなく、モヤモヤした感情も時にみえるのがよい塩梅のコンセプト。石川県民としては、金沢に定宿を持つ女性作家が小松空港の入り口で見た曇り空の晴れ間に思わず見とれる箇所に(分かってるな~)と頷くことしきり。

 

2019年6月に読んだ本まとめ

湖 

湖

 

 前半は(ああ、世界のありふれた残酷さを淡々と描き出す系か…チョイス間違えたな)と読み進めていたが、折り返したあたりからテーマが研ぎ澄まされつつ現れてくる。主人公の少年が村落から都市へと移入すると同時に社会への視点が現代化していくが、相対化して達観というわけでもなく、ただ落ち込み絶望するでもなく、決して解け切れない謎こそが現実というものだと少年が肌身で感じ取ることで物語は終幕する。こういうアイデアの奇抜さが売りでない小説こそずっと記憶に残る気がした。

2019年5月に観た映画まとめ

ザ・バニシング -消失- (’88 オランダ・フランス/監督:ジョルジュ・シュルイツアー)

 日本では劇場未公開だった作品がどういう経緯でかロードショー上映。80年代後半のドイツ郊外の風景の空気感やフィルムそれ自体の質感がレトロまで行かないほどの適度なノスタルジックさ。父に連れられたドライブの記憶が揺り動かされる。…というのはさておき、自己顕示型重大犯罪の心理を現実にさきがけて描ききっているあたり確かに恐るべき作品だと思った。ラストシーンが単なる戦慄に留まらず、加害者の精神にふしぎに接近してしまった(深淵を覗き込んでしまった)被害者の自嘲心に同調させてくる独特の味わい。

 

蒼穹のファフナー THE BEYOND ('19/監督:能戸 隆)

3話分の先行上映という形での興行なので、オープニングアニメとエンディングアニメがその仕様のままだったのは単に工夫をつける手間が取れなかったのか、意図的なものだったかはよく分からない。本編のボリュームと各話の趣向のバラエティの幅の二点においては満足度は高い。シリーズのファンとして初日の初回に観られたことはいい思い出になった。

 

バースデー・ワンダーランド ('19/監督:原 恵一)

宣伝ポスターのイメージよりも活劇要素が多く、キービジュアルは主人公の少女と若い叔母とが吊り橋をオープンカーで疾走するシーンから着想するべきだったと思った。くすりと笑えるコメディシーンも多く、配給側自身が推しだしポイントを押さえきれていなかったきらいがある。個人的には、シビアさを秘めたテーマだからこそのもっと微妙な屈折度で演出を付けてくれても良かったと感じた。キャラクターデザインはとても好き。

 

スターチャンネルで視たもの>

 

ベイビー・ドライバー ('17 アメリカ/監督:エドガー・ライト)

音楽・モータリゼーションアウトサイダー。古き良きアメリカ映画へのオマージュを題材に現代的な視点で構築しなおして爆竹で空に吹っ飛ばしたような快作。マッチョでもなくナイーブだけでもない主演のアンセル・エルゴートの持つ雰囲気がベスト配役すぎる。

2019年4月に観た映画まとめ

ブラック・クランズマン ('18 アメリカ/監督:スパイク・リー)

ヒロインがメガネをかけていたのが、なかなかアメリカ映画として斬新だと思ったぐらいで自分にはリー監督の演出傾向はあまり合ってないのかもしれない。主人公とタッグを組んで人種差別主義者としてふるまって見せた潜入担当の捜査官の、ユダヤ系という出自からくるジレンマをもっと見たかったところ。

 

金子文子と朴烈 ('17 韓国/監督:イ・ジュンイク)

劇中で金子が掛けていたメガネがあとから思うと当時には瀟洒すぎるデザインな気がした…というのは瑣末な感想。ただ差別され虐げられていたわけじゃない大正時代の朝鮮人たちの姿が活き活きとしていてそこがまず印象に残る。裁判の皮肉な行く末は史実を題材にしたものならではのビターさ。しかし金子を演じた女優の日本語演技の上手さよ。

 

スターチャンネルで視たもの>

KUBO クボ 二本の弦の秘密 ('16 アメリカ/監督:トラヴィス・ナイト)

 ストップモーションアニメ作品。世界観のたそがれた感じはいいんだけど、横の広がりが空気としてあまり伝わってこなかった点がやや退屈に思った。クボ少年の眼はもうすこしラウンドな形な方が自然に観られたかな。

2019年3月に観た映画まとめ

グリーンブック ('18 アメリカ/監督:ピーター・ファレリー)

迫るクリスマスの雰囲気と男だけの侘しいドライブ旅行との落差が、そのまま社会における理念と現実を示している。依頼主のもっともセンシティブな部分をあえて言語化しないバランス感覚の鋭さ。ピアノ演奏シーンもすべてすばらしく、音楽映画の側面も持っている。

ゴッズ・オウン・カントリー ('17 イギリス/監督:フランシス・リー)

主役どちらもが飛びぬけた美男ではないところにリアリティを感じた。恋愛と生活を切り離すことなく、それでもある条件が合えば、そのとき神の恩寵は荒野に顕現する。厳しい現実を描きながらもそれを超える瞬間を導き出す力強い作品。主人公の祖母が泣き出すシーンは脇役である彼女の存在感をそれこそ必要最低限の描写で浮かび上げていて、演出のレベルを知らしめる。

ふたりの女王 メアリーとエリザベス ('18 イギリス/監督:ジョージー・ルーク)

それぞれに弱みとしがらみを持つ女王たちが終盤にようやく邂逅する。その赤い数え切れないベールの小屋は、彼女らを時空を跳び越えさせて、いつか女性の君主が男性に陰で組み敷かれることなく民に認められる未来を予感させる。フィクションの意味がそこに重点的にある。

ヴィクトリア女王 最期の秘密 ('17 イギリス/監督:フランシス・リー)

女王に気に入られた当時の植民国インドからの使用人。彼の欺瞞心をある程度は物語に残しつつ二人の友人としての交流が描かれるわけだが、それでも陰で屋根裏部屋で病死する弱き存在は登場しているわけで、単なるほのぼのになってないあたり結構好き。あと老いの描写に注力されている点。

マチルド、翼を広げ ('17 フランス/監督:ノエミ・ルボフスキー)

小学校高学年の少女が、ひとりで精神が不安定な母の面倒を見ながら孤独すれすれの暮らしを送るわけだが、ペットのふくろうが愛らしかったり、生活を彩る小物や服がシックポップだったりして暗い映画にはなってない。長じた娘が療養所で母とダンスするなにげないシーンは印象的で忘れられない。

<ネット配信で視たもの>

コララインとボタンの魔女 ('08 アメリカ/監督:ヘンリー・セリック)

パペットアニメーション。曇天の日のような薄暗い光線や、プロポーションをあえて少し歪ませたような人物デザインがなんだかとっても自分の肌に合うというか好み。異世界描写もくもの巣だらけの空間が多かったり、夜のシーンばかりだったりと、子ども向け=明るいという既成概念を、企画の時点で伸び伸びと破っている作品。

2019年4月に読んだ本まとめ

いまファンタジーにできること

いまファンタジーにできること

いまファンタジーにできること

 

( 2011年からの再読)

ル=グィンが実際に講演した内容を書籍化したもの。動物が主役の名作を解析しながら、子ども向けの小説の効用を説いた章で、ファンタジーが評論家や世間から軽んじられている不当性を明示する根気強さに彼女の芯を見た気がする。

 

 

言葉人形 

 「白い果実」三部作や「シャルビューク夫人の肖像」など日本でも強いインパクトを海外文学ファンに残してきたフォードの十数年ぶりの邦訳新刊にして初の日本オリジナル短編集。徐々に幻想度の強い設定にスライドしていく構成がフォードの精緻な作品世界に合致しており、自分がここ数年読んだ中ではもっとも完成度の高い一冊になっている。最も好みなのは自伝的な語り/騙りの『<熱帯>の一夜』、ヒロイックファンタジーの体裁でありながら無敵の剣士であることが耐えがたい呪いであると示す『珊瑚の心臓』。奇想があざやかな『巨人国』はフェミニズムを「ガリバー旅行記」に似たアイロニーで包んでおり、フォードの技巧が味わえる。

 

ウルクリーク橋の出来事/豹の眼 

アウルクリーク橋の出来事/豹の眼 (光文社古典新訳文庫)
 

 生と死が交錯する瞬間を描いた表題作は、ピアスという作家の本質をこの上なく端的に表明している。シンプルなのに何度も思い返してしまう。同じく南北戦争を題材にした『良心の物語』もおすすめ。