緑のヴェール

緑のヴェール

緑のヴェール

ファンタジー三部作の最終巻。第一部『白い果実』は独裁者の思想を直裁に具現した都市が舞台、第二部『記憶の書』は亡き独裁者の記憶が造り出した仮想の土地での探索行、そして第三部である本巻では主人公クレイはとうとう独裁者の影響が及ばない辺境「彼の地(かのち)」を彷徨する事となる。結論からいえば、じんわりと心に沁みわたってくる順当なオチを付けたなと。フォードの作品は数こそまだ多くないようだけど、これまで読んできた中でどれもが“ここではないどこか”ないしは“まだきていない未来”からやってくる風を顔に受けて水辺に立っているような心もとない中にも爽やかな気持ちが感じられるままに終わっている。このシリーズもジャンルがジャンルだけに寓話性が強くて筋を説明するのは一筋縄ではいかないけども、たとえば本巻においては章ごとに付けられたサブタイトルによってそれぞれのメインモチーフが明らかになる(眼鏡を掛けた魔物、ミスリックスのモノローグによる最終章のその意味合いは実に切ない)ように仕掛けがあり、読みにくさはほとんど感じられない。第一部や第二部では採用されていなかった断章形式も、全体テーマが浮かび上がってくる毎に意味合いを為してくるし、端的に豊富な奇想アイデアを提示してくれているという面でも有効だったと思う。描き出そうとする世界観同様に複雑にして単純なつくりで象られた傑作。読むべきです。