2023年1月に観た映画

ナイブズアウト:グラス・オニオン ('22 アメリカ/監督:ライアン・ジョンソン)

配信オンリーなのがもったいないほどゴージャスな画面づくり、またシリーズ前作が未見でも単品として楽しめるなど、Netflix会心の一作。無人島の豪邸に集められた旧友同士のセレブたち。その中には手違いで招待されたらしき自称・世界でもっとも有名な探偵のブノワと、彼以外の者にとって望ましからざる参加者である招待主のかつての共同経営者が含まれていた。のっけから不穏な雰囲気が漂い始めるバカンス。そしてパーティの最中、ついに殺人が行われてしまう。最後にあらわれる一番奥の真実とは?という、まるで往年のクリスティ映画のような王道ミステリー。そこに現代のホット・トピックスを載せることで次々に興味を惹いてくる命題が画面の中で展開されるわけだが、それらに明解な正論や製作者のメッセージを提示することはなく、そうすることで入れ子構造の"謎"、絶え間ない"疑問符"が視聴者の目前に現れ、そしてただフローしていく。とはいえこの映画で一つだけ明らか、またはあからさまに描かれている事柄がある。それは現代の富裕層のメッキのあまりの薄っぺらさだ。彼らはかつての上流社会の構成員に期待されていたような様式や気位や教養はむしろ一般層よりも無く、なおかつその事を自ら鼻にかけてさえいる。資本の力にものをいわせた数々の趣向、リビングに無数に飾られた芸術品でさえも最初から覆い隠せてないその空虚さ。これまでの映画にないほどに効果的に描かれていた。ガラスのタマネギというドデカいバカげたオブジェが作中に搭乗する。核は丸見えなのに、まとった属性の薄皮が織りなすプリズムがあまりに複雑なために、誰も"王様は裸だ"と言い出せない。では裸の王様のカラカラにやせっぽちな精神を表に引きずり出してやるにはどうすればいいのか? 本作で描かれたその一つの回答例は、偶然であろうが現実での一連のとあるアートにまつわる事件と重なる部分があった。現実への誠実なアプローチは常に複層的にしか示せない。


金の国 水の国 ('23 監督:いしづかあつこ)

オリエンタルな架空国家が舞台ということで、煌びやかな宮殿美術、素朴なカラフルさのバザールの小物、緑したたる辺境の森、自由な精神の象徴のような広々とした砂漠といった映画向けの要素を、きっちりと箱庭にまとめ上げて、なおかつMAD HOUSEのお家芸といえる映画のスケール感にふさわしい垂直感覚の鳥瞰をたっぷり感じさせてくれるアクション部分。ドラマは意外とあっさり風味な分、スクリーンで冒険と恋愛を楽しむという興行本来の愉しみに満ちていて、期待通りの満足感だった。非専業キャストが主演した配役も及第点以上。特にアクセントキャラを演じた沢城みゆきのバイプレーヤーぶりが素晴らしかった。キャラクターでは、自分が見かけしか取り柄がないと思い込んでいるところを早々にナランバヤルに解放されるサラディーンが印象的。