UN-GO 因果論

UN?GO 因果論 (ハヤカワ文庫JA)

UN?GO 因果論 (ハヤカワ文庫JA)

TVアニメシリーズの前日譚として期間限定上映された劇場版アニメの脚本家本人によるノベライズという少々ややこしい出自の小説。が、おそらくは単体としてもふつうにミステリー長編として楽しめるのではないだろうか。そう考える根拠が大きくあるのは、小説本編「因果論」の前に置かれた章前短編「日本人街の殺人」の完成度の高さ。短編ならではの文体スタイルの際立ちと、推理部分の割合の大きさが、大きくこの本の価値の底上げに貢献し、なおかつ作品世界へのスムーズな導入を助けている。本編「因果論」は劇場版よりも場面や人物が増えているが、大きなストーリーの違いはほぼなく(ただしここで初めて分かる設定がいくつかは在る)、心理面の深みを掘るのに徹した印象で、読み応えの軸はそこにあった。特に、主人公に強い影響を与える事となる登場人物の一人の行動には息を呑まされる。映像では下手に描くと全体のバランスがぶちこわしになる。それほどのインパクトを秘めたくだりだ。ともあれ、映画を観てからパンフレット替わりに読んでよし、ミステリ小説としてこちらを楽しんでから映画を観て媒体からくる差異を味わってもよし。多層性を楽しむコンテンツ「UN-GO」の世界はまだまだ終わっていないようだと再認識した。