沈黙 サイレンス('16 アメリカ/監督:マーティン・スコセッシ)

禁制時代のキリスト教伝道師たちの内面にはおそらくは布教の熱意以外にもそりゃもう色々なレイヤーが多層していたと思うが、ここではそれらはまったく描かれない。そして取り締まる侍たちの表情や物言いはえらく現代日本のお役人やサラリーマンの移し身のように描かれる。つまりここでは、キリストの教えも弾圧の中身も、等しく『寓話』の手段として見るべきではないか、と不遜かもしれないが非キリスト教徒の自分は思った。眼前に在る人々の苦悶と教義とを天秤にかけ、その結果うまれた偲びがたい矛盾とともに、なお信仰を持ち続けること。この映画の真髄は静かで表面上は美しささえ漂わす心の地獄を描いた後半十数分にあるなと感じた。…しかしなぜスコセッシはこんな瑕疵のない日本人論をつくれたの?