2021年3月に観た映画まとめ

シン・エヴァンゲリオン劇場版:ll ('21/監督:庵野秀明摩砂雪鶴巻和哉前田真宏中山勝一)

ラストシーンが寂しくもあり爽やかでもあり感無量。色々と衝撃を振りまいてきた本シリーズがこうしてジュブナイルとして大団円を迎えた事に、様々な困難を越えて形を為したスタッフ諸氏に、90年代に青春を送った者として感謝を述べたい気持ちで満たされた。同じ女としては、リツコやミサトのテレビシリーズからの吹っ切れ方に快哉を送りたい。前半の農村風景と、後半の量子論SF世界をメカ描写の力で結びつける剛腕もギリギリ成功。

 

あのこは貴族 ('21/監督:岨手由貴子)

平熱で綴られる端正な東京の日常。すれ違いの出会いで人生を変えられる瞬間の密度こそ、東京という複雑な層の街の本質であり、日本人にとって東京が単なる首都以上のアイコンであることの意味でもある。令和の「東京物語」。たった一人の理解者がいれば生きていける街。人も街も顔は一つだけじゃないと教えてくれる場所。ところで、主人公の一人の実家の地に足が着いた裕福さを映した諸シーンが特に秀逸。いっけん手が届きそうな箇所にこそ格差のエッジは潜む。その裏面として洗面台に喀痰されるシーン。

 

すばらしき世界 ('21/監督:西川美和)

職場で徒党を組んでだれかをいじめる時、どんな顔をすればいいか分からない。分からないことさえ責められる社会においていかに“正しく”生きればよいのか。そんな悪い意味でも広く野放図な世の中を、心の中でどう受け止めればいいのか。そしてどう名付ければ落ち着くのか。主人公が刑務所という一つの安寧の地から旅立ち(雪舞う白い空)、嵐の宵に雲厚い空に昇っていった生のシークエンスを考える時、為されなかった仕草、発せられなかった言葉の意味が手渡されてくる。喧嘩相手の耳をかじる役所広司の演技はまさに憑依されたかのようで、そして映画としてのエロスを一手に負ったキムラ緑子のささやきがいつまでも耳元にリフレインする。力強さと軽妙さを併せ持った重奏の作品。人がしゃべる事そのものがそもそも滑稽なのだ。だからシリアスな状況でも笑いは常にしのび込む。

 

〈ネット配信で視た映画〉

蜘蛛の巣を払う女 (’18 イギリス、ドイツ、スウェーデン、カナダ、アメリカ/監督:フェデ・アルバレス)

人類とその生存空間が恐ろしくなる前作よりもグッと安心して観られる。こちらの神経過敏がやや収まったリズベットも自分は嫌いじゃない。でもなー。やはり一言でいうと凡庸なサスペンスアクションと評してしまうのに吝かでなかった。