2022年4月に観た映画

ナイトメア・アリー ('21 アメリカ/監督:ギレルモ・デル・トロ)

どの街にもある『悪夢小路(ナイトメア・アリー)』。そこでは人生という迷路で袋小路に詰まった者たちが行き倒れている。悪意、失望、孤独、格差、搾取。あらゆる悲惨がカードのように目の前で展開される。さあ、どれを引く?  しかし他人を陥れる狡さと悪意の深さで社会階層を上がれるのなら、人生は表面的な美醜とは無関係に等しく汚泥で舗装されていることになる。その生の真実が“物語”というロジックの枠にきっちり嵌った瞬間、一滴のカタルシスを感じるのも救いといえるのかもしれない。ブラッドリー・クーパー演じる主人公の最後の笑/泣顔が脳裏を去らない。

 

アネット ('21 フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ/監督:レオス・カラックス)

恋のたかまりを表現した美しいポスターに騙されるが、これは愛の物語ではない。さらにいうと、そのシーンはドメスティック・バイオレンスの現場なのだ。なんという悪童精神。カラックスここに在り。SNS時代の寵児となる赤ん坊の(劣等感から妻を虐待した夫の娘)アネットはなんとマリオネットとしてほぼ全編に演出される。かえって手間かかるだろ!それもしかしてコンプラ全盛時代へのアイロニーか?でも面白い。すべてのカットが腰すわって視点が定まった構図。アネットの歌が世界を席巻する描写の、偶像が夜空をきらきらと回転するイメージのバカらしさと愛らしさの両立。『ホーリー・モータース』よりさらに進んだ自作客体化を見せてもらって、あちらは不満気味だった自分は本作はかなり好き。親子関係という今もっともセンシティブな対象への着地点も納得がいくものだった。そしてどの街も夜が美しかった(でも東京の高層ホテルからの夜景、あれ実際の撮影はマカオとか香港じゃない?)。

 

MEMORIA ('21 コロンビア・タイ・イギリス・メキシコ・フランス・ドイツ・カタール/監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン)

ポスターの良さに惹かれて観に行ったので、環境ビデオとしては満足。ただ、このカットさすがに長すぎでしょ?ということが一度ならずあったので、自分はあんまりこの監督の良さは分からないかもしれない。講義室に満ちるセッションの演奏音、ジャングルに降りしきる雨の落下音を経ての、絶対的な無音/爆音へと至るイメージの旅としてはそれなりに浸ることができた鑑賞体験だった。