リップヴァンウィンクルの花嫁('16/監督:岩井俊二)

主人公である非常勤講師の20代女性の行動の隙の多さっぷりに、物語前半にはツッコミしかない。しかし彼女の精神が両親の不仲からくる複雑な家庭環境や、変化の速い社会状況に長い間じょじょに追い込まれていった事は展開の中で十分に伝わってくる。ネット結婚で得た一見平穏な新婚暮らしを唐突にうしなってからの彼女の彷徨、に一種の解放感があるのを認める人は多いのではないか。キーキャラクターとなるのはふたり。一人は彼女に「自分と友達になる契約をしてほしい」と認める風変わりな女性(Coccoが配役。主人公と歌声喫茶でデュエットするシーンは心に残る)。もう一人はさらに重要で、SNS時代の悪意と善意を同時に体現したようなうさんくさい多角的詐欺師。この映画の優れている点はこの二人が、主人公に対して与える影響がときに悪影響であり、ときには生きる力を与える精神や経済面の援けとなっている事。時代に取り残された伝承の人物である『リップヴァンウィンクル』とは、Cocco演じる女性が用いていたアカウント名だが、これはむしろ時代の変化に惑っていた主人公を指す意味の題名だったのかもしれない。ラスト、郊外のなんてことはないが窓からの眺めがすばらしいアパートの室内が非常に爽やかだ。ロードムービーのような味わいもある、猥雑ながら美しい映像は岩井監督ならでは。