2022年3月に観た映画

ライダーズ・オブ・ジャスティス ('20 スウェーデンデンマークフィンランド/監督:アナス・トマス・イェンセン)

テック陰謀論、家族間虐待、社会的弱者、有害な男性性、ネオリベ接近ギャング。様々な現代の問題を詰め込んで、よくこの着陸点に辿り着いたなと思った。それで済むのかしらというアラはあるものの、まあクリスマスだしな!とムードで流せるいい加減さもこの映画のチャーミングなところ。銃撃戦でのもうさすがにダメ、終わった…からの展開は久しぶりに映画で胸がスッとした。印象的なキャラクターのバリエーションでは今年の指折り。特にカウンセリングを受けすぎてカウンセラーの真似事が出来てしまう内向的なおじさんが現実感あって良かった(もうしませんごめんなさいってシーンがほんとに沁みた)。心が深く傷ついた人たちのサークル物語であり、あるいは新たなるランボー型破天荒アクションでもあり。

 

THE BATMAN ('22 アメリカ/監督:マット・リーヴス)

暗くリアルな荒んだ街から始まり、自分の殻に閉じこもった青年主人公がときに自らの中の破壊衝動をコントロールできずに、それでも悪と戦う自警活動をやめられない。正直いってそのまま、精神面で成長せずにラストまで持っていってほしいという衝動を観ている最中に感じたが、中盤のキスシーンで物語はなだらかに変調する。クライマックスの、ドラクロワレンブラントの名画を思わせる重厚な光線設計の救助誘導の場面へと導きだされたメッセージ性もまた、悪くないと今は思ってる。暗い通路で明滅する戦闘シーンのスタイリッシュさ、歯止めの効かない行動原理を象徴したカーチェイスなど、アクションもそれぞれちがう趣向が凝らされていて見ごたえがあった。

 

パワー・オブ・ザ・ドッグ ('21 イギリス、オーストラリア、アメリカ、カナダ、ニュージーランド/監督:ジェーン・カンピオン)

室内を撮る空気感、日常に潜む緊張がこれでもかと演出されているのが印象に残った。同じく人間関係でのやり場のない居心地の悪さも。聖書で説かれるところの“犬の力”への対処は人それぞれだが、完全に逃れることができないからこそなるべく自らを遠ざけろという事なんだと思う。同性愛者である事を自分自身で認めることができずに生きる西部のカウボーイを演じたカンバーバッチの、表情のみならず仕草や姿勢でまで表現した様子が忘れがたい。ただ、他者への攻撃性という現罪に対してのアプローチは、ふんわりとしたままで終わっているような感じもする。

 

バトル・オブ・ザ・セクシーズ ('17 アメリカ、イギリス/監督:ジョナサン・デイトンヴァレリー・ファリス

プロテニスの賞金の明確すぎる男女差に対して異議を申し立てた女子選手が、旬を過ぎた50代の男子選手のおちょくりめいた挑戦を受けて立ったという70年代アメリカの実話がベース。女性蔑視という根を持つ性差別が今よりさらに当たり前だった時代の空気の再現がこれみよがしさの無い自然さで、そうだ、悪意以前の態度の噴出だからこそ問題は深いのだと改めて気付かされる演出になっている。主人公のレズビアンの女子選手、人格的にも経済的にも頭の上がらない妻を持つ男子選手、双方を囲む登場人物たちすべてにこまやかに陰影が付けられており、脚本が非常に練られているために試合の行方が単なる勝敗のカタルシスを超えた、将来というそこにはない次元への希望が感じられた。特に性格描写が巧いと思ったのはそれぞれの配偶者たちで、結婚という引いて考えれば相当に不思議なシステムについてのパースペクティブにもなっていると思う。