OVA「新ゲッターロボ」(’04/全13話 監督:川越 淳)

 昨年にTV放送されたゲッターロボシリーズの最新作「ゲッターロボアーク」でなぜか急にゲッター線に目覚めてしまった(伏線としては幼少期に読んだ石川版ゲッターロボがある)余波として、同シリーズの平成OVA三作の掉尾を飾る「新ゲッターロボ」をはじめて最終話まで視通すことができた。なぜ"はじめて"かというと、これまではバイオレンスドラマとロボットアクションを繋げる企画の意図が掴めなかったのである。さらに言うと、それをロボットアニメ名作のリメイク(なお厳密にはこの定義はあたらない)でやる意味が分からなかった。

 「新ゲッターロボ」は石川賢が存命中に制作された最後のアニメ作品である。それにふさわしく、石川が構築した"ゲッターロボサーガ"のエッセンスをよく掬い取って嚙み砕いたのちに構築し直された内容となっている。東映TVシリーズとも先行のOVAシリーズ2作とも大きく異なるキャラクター設計(もっともゲッターロボはどのシリーズにおいてもキャラクターやストーリーのアプローチと解釈がバラバラなのだが)は、石ノ森章太郎の昭和SF漫画をアニメ化する際に数多くメインライターを担ってきた大西信介の持ち味がかなり強く出ていると私見した。それは一言でいえば"無頼"。たとえれば昭和の脚本の自由度の高かった時代劇や、平成に多く流通していたレンタルビデオ向けのヤクザものに似た雰囲気が本作にはある。根なし草の野良犬たちが吠えまくり暴れまくり、やがてはどこかへ去ることで世間から消えていく。その哀愁をロマン仕立てにした趣向に近いものが、この「新ゲッターロボ」では料理の"つなぎ"の役目を果たしている。いわばこのアニメのジャンルはピカレスクであり、ノワールと定義してもそう外れてはいない。そこに本作の最大の特長がある。ちなみに主人公パイロットたち三人それぞれの属性は、外道とされた格闘家、殺人を辞さないテロリスト、時代遅れなまでの破戒僧…である。なお、他のゲッターロボ作品と比べて本作の白兵戦の割合とその血生臭さは抜きんでていることも補足する。

 そうなると、何度視返しても(なぜ平安時代タイムスリップで4話も使う?)となってしまう「黒平安京」編がむしろアニメとしてのケレン味を強めるためのバランサーだったのではないかと仮説を立てたくなってくる。中途半端にキャラが立った(子安武人の悪役演技は例によってすばらしい)安倍晴明といい、なぜ女なのか脚本意図があやふやな(セクシー要員かといえば全然そんなことはない)源頼光といい、率直にいって舞台負けしがちなテーマ構成になっている「黒平安京」が、アニメとしての見応えを加えるために現実とは離れた空間に一旦は舞台を移す必要があったと理解できる気がしてくる。ただ、前半で"鬼"という存在でくりかえし示唆された、人類の種保存本能と表裏一体の攻撃性=暴力志向がテーマで十分に昇華されたかというと、結論をいえばかなり惜しいといわざるを得ないかもしれない。

 「黒平安京」編と終盤の四天王神の来襲とを繋ぐブリッジにあたるのが第9話の『地獄変』だが、そこで主人公のひとり流 竜馬は未来の東京が異形の人類だけが生き残る荒れ果てた場所になっているのを幻視すると同時に、その荒廃が自分自身の内面が反映された帰結だと直観する。ここで竜馬の比類ない無頼性がテーマの軸としてクローズアップされていくのだが、それを補強するイメージとしての画面描写は的を射ているものの、周囲のキャラクターから見た竜馬のスペシャリティへの批評や説明が少々不足しているゆえに視ていて理解が追い付いていかない感触がある。独自の意思すら持つと観測されている、宇宙からの未知のエネルギー体である"ゲッター線"。その意思に選ばれた存在である竜馬の特異性は、最終決戦に向けてもっと印象付けられていた余地があると考えるのが、自分が本作に抱いた惜しさの理由だ。竜馬というキャラクターの異物感と、そこを突破してのピカレスクロマンの本懐。さらに脚本と演出とでテーマが練磨されていればと対四天王戦を視ながら考えてしまっている自分がいた。そもそも"神"を自称するには四天王たちはスケールが小さく感じられ、ゲッターロボサーガの特徴である"人類がやがて対峙する脅威"の得体の知れなさと比べると、わかりやすい解釈とのバーターに思えるのが難だ。それとも、四天王たちの眷属たちによる物量戦(チェンゲ序盤の有名なシーン!)があるなどの画面を盛る趣向があったらよかったのかもしれない。

 とはいえゲッターファンの端くれである自分が本作を評価しないかといえば、全くそうではない。消えゆくVシネ文化の徒花のような暴力でなにもかも昇華する粗さと、やりきれない言葉未然の感情をときおり拾うこまやかさという日本アニメの得意とするところ(意外とキャラが黙考するカットは多い)が自然に融合した演出の安定度、市街戦、攻城戦、研究所の格納庫、ダム湖などを舞台設定としたロボットアクションの豊富なバリエーション、そしてここぞという回では爆発的にエッジな動きをみせるアニメート、何より捉えどころがなく、古いファンほど「何度読んでも分からん」といわしめる石川賢が織りなす"ゲッターロボサーガ"を大胆に改変して自家薬籠中としつつも、いくつかのシチュエーションなどで石川版を踏襲してパラレルワールドの醍醐味をも醸成していることなど、何度も観返す価値は十二分にある。おそらくゲッターOVA三作のなかでも全体的な評価はもっとも高いのではないかと思われるので、興味のある方には一見だけでもおススメしたい。ところで個人的には、マッドサイエンティストの早乙女博士の令嬢であるミチルの現代を先取りしたかのような自立した女性キャラぶりに注目してほしく思う。それでいて、他シリーズの彼女ともそこはかとない繋がりは切れていないのだ。(余談ながら。暴力描写はやや過剰気味なのだが、女性をいたずらに客体化する面はあまりない気がするのよ、ゲッターロボ全般。)