人はなぜ戦争をするのか

人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス (光文社古典新訳文庫)

人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス (光文社古典新訳文庫)

第一次世界大戦によって総力戦と消耗戦の概念がヨーロッパに浸透したことは、自らの進歩した文化に信頼を寄せていた当事の知識人たちに深い衝撃と動揺をもたらした。この表題作におけるアインシュタインへの公開回答書簡の中でフロイトは、人間が成長するうちに段階を踏んで変化した精神は、しかし退行して抑制を失った自我に戻ることがままあると説く。それは戦時の狂気は一時的なものとして、闇雲に絶望することを避けるための文脈なのだが、逆の方向からみれば、戦争の残虐はこれから幾度も繰り返されるという予測でもある。フロイトの冷徹な科学精神と、時代状況の閉塞感がよく伝わってきた。
同時収録のエッセイ二つに講義二本では、自我と超自我エスの三つの概念や、それらの関係性からくる自己抑圧のシステムが分かりやすい明確な訳文で最大限に理解の助けが得られた。