スペードのクイーン/ベールキン物語

スペードのクイーン/ベールキン物語 (光文社古典新訳文庫)

スペードのクイーン/ベールキン物語 (光文社古典新訳文庫)

滑らかで古臭さがまったくなく、スピード感すらある訳文が素晴らしかった。
巻末解説にある通りにいくつもの意味が読みとれる「スペードのクイーン」は、賭博がテーマなだけに形而上と形而下を行ったりきたりする酩酊感がある。勝負の冷酷さというシンプルな筋立てがさりげなくスタイリッシュに仕立て上げられている。一方、家庭をテーマに5つの短編で構成された「べールキン物語」は運命に翻弄される人情が滲み出ているが、しかしベタつくことのない距離感がやはりそこにもある。とにもかくにも、地味なようでいて色彩に飛んで絢爛とすらいえるプーシキンの作品世界への入門として絶好の一冊だった。