冬の夜ひとりの旅人が

冬の夜ひとりの旅人が (イタリア叢書 1)

冬の夜ひとりの旅人が (イタリア叢書 1)

読書好きの男女が落丁した新刊本を交換するために赴いた書店で出会い、その内に手に取った小説の中身と女性読者の存在とが糸で結ばれたように絡み合っていく。ストーリーが展開していく章の狭間に、物語の典型をパスティーシュした出だしが置かれており強く興をそそられる。あらゆるパターンが出尽くしたといえる現代の小説界において、書き手を続けることや良き読み手であることの意味を問うていたのかもしれないが、序盤しか語られずに途絶していく物語それ自体の魅力の前では、その命題もかすむ。もっとも完璧な小説とは、おそらく未完の作品なのだ。